GMOサイバーセキュリティのASMツールが大幅機能拡張
GMOサイバーセキュリティ byイエラエが7月28日に発表した「GMOサイバー攻撃 ネットde診断 ASM」の機能拡張は、企業のネットワークセキュリティ強化において非常に重要な意味を持ちます。
今回新たに対応したのは、ヤマハのRTX・RTシリーズ、シスコのCisco Meraki、そしてバッファローの各種ネットワーク機器です。これらの機器は多くの企業で使用されており、この対応拡張により企業のセキュリティ対策がより包括的になることが期待されます。
現役CSIRTが語る:ネットワーク機器を狙った攻撃の実態
私がフォレンジック調査で担当した事例の中で、特に印象深いのが中小企業のルーター侵入事例です。某製造業の企業では、古いファームウェアのまま放置されていたルーターから侵入され、社内ネットワーク全体が攻撃者の制御下に置かれていました。
攻撃者は以下の手順で侵入していました:
- インターネットスキャンによる脆弱性発見
- 管理画面への不正アクセス
- 設定変更による内部ネットワーク侵入
- 機密データの窃取
この事例では、被害企業は数百万円の損失と信頼失墜を経験しました。もしASMツールで定期的な診断を行っていれば、侵入前に脆弱性を発見できていたでしょう。
ASM(Attack Surface Management)とは何か?
ASMは「攻撃対象領域管理」と呼ばれる比較的新しいセキュリティ概念です。企業が抱える全てのデジタル資産を可視化し、攻撃者が侵入可能な「攻撃面」を継続的に監視・管理することを目的としています。
従来のセキュリティ対策では、企業内部からの視点で対策を講じることが多かったのですが、ASMでは攻撃者の視点から企業のデジタル資産を評価します。これにより、見落としがちな脆弱性を発見できるのです。
GMOのASMツールの特徴
「GMOサイバー攻撃 ネットde診断 ASM」は国産ASMツールとして以下の特徴があります:
- 社名やサービス情報から攻撃対象を自動特定
- Webサイトとネットワーク機器の包括的診断
- 定期的な自動スキャンによる継続監視
- 日本語サポートによる運用しやすさ
新対応機器の脆弱性リスク分析
今回対応が拡張された各メーカーの機器について、現場での脆弱性傾向を分析してみましょう。
ヤマハ RTX・RTシリーズ
ヤマハのルーターは中小企業で広く使用されていますが、以下のような脆弱性が発見されることがあります:
- デフォルト認証情報の未変更
- ファームウェアアップデートの遅延
- 不要なサービスの有効化
実際の事例では、RTXシリーズのデフォルト設定のまま運用していた企業が、管理画面への不正アクセスを受けた例があります。
シスコ Cisco Meraki
クラウド管理型のMerakiシリーズは便利ですが、以下のリスクがあります:
- クラウド管理画面の認証強度不足
- API設定の不適切な公開
- ネットワーク設定の意図しない開放
バッファロー各種機器
コンシューマー向けから企業向けまで幅広いバッファロー製品では:
- 管理画面の弱い認証
- UPnPの不適切な有効化
- 古いプロトコルの使用継続
といった問題が見つかることがあります。
企業が今すぐ実施すべき対策
ASMツールの導入を検討する前に、企業が最低限実施すべき対策をご紹介します。
1. 資産の棚卸し
まず自社が保有するネットワーク機器を正確に把握しましょう。意外と「設置したけど管理者不明」の機器が存在することがあります。
2. 基本設定の見直し
- デフォルト認証情報の変更
- 不要なサービスの無効化
- ファームウェアの最新化
- ログ機能の有効化
3. 定期的な脆弱性診断
Webサイト脆弱性診断サービス
のような外部サービスを活用し、専門家による定期的な診断を受けることをお勧めします。
個人ユーザーも知っておくべきリスク
企業だけでなく、個人ユーザーも同様のリスクを抱えています。特に在宅勤務が増えた現在、家庭用ルーターのセキュリティ対策は企業の情報資産を守る上でも重要です。
個人でできる対策として:
- アンチウイルスソフト
の導入によるエンドポイント保護
- VPN
の利用による通信暗号化
- ルーターの管理画面設定見直し
これらの対策を組み合わせることで、攻撃者からの侵入リスクを大幅に低減できます。
まとめ:継続的なセキュリティ対策の重要性
GMOサイバーセキュリティのASMツール機能拡張は、企業のセキュリティ強化における重要な選択肢の一つです。しかし、ツールを導入するだけでは不十分で、継続的な運用と改善が必要です。
サイバー攻撃の手法は日々進化しており、昨日まで安全だった設定が今日には脆弱性となる可能性があります。だからこそ、定期的な診断と継続的な監視が欠かせません。
企業の規模に関わらず、デジタル資産を持つ全ての組織がASMの概念を理解し、適切な対策を講じることが重要です。今回のような機能拡張により、より多くの企業が包括的なセキュリティ対策を実現できることを期待しています。