見えない脅威:APT37が仕掛けるステガノグラフィー攻撃の恐怖
北朝鮮と関連するハッカー集団「APT37」が、これまでにない高度な攻撃手法を駆使していることが明らかになりました。彼らは普通の画像ファイルに悪性コードを巧妙に隠し、一般的なセキュリティソフトでは検出困難な攻撃を展開しています。
この攻撃手法は「ステガノグラフィー」と呼ばれる技術を悪用したもので、JPEGなどの画像ファイルの中に悪性コードを埋め込むという極めて巧妙な手口です。一見すると何の変哲もない写真や画像に見えるため、多くの人が気づかずにファイルを開いてしまう危険性があります。
実際に発生した被害事例
私がフォレンジック調査を担当した案件では、中小企業の経理部門が「会社の忘年会写真」として送られてきた画像ファイルを開いたところ、銀行の振込情報や顧客データが海外サーバーに送信されていた事例がありました。
また、個人のケースでは、SNSで拡散された「話題の画像」をダウンロードした直後から、オンラインバンキングの認証情報が盗み取られ、数十万円の被害が発生した事案もあります。
APT37の新しい攻撃パターンを徹底分析
サイバーセキュリティ企業ジニアンスの報告によると、APT37は以下のような複数の攻撃手法を組み合わせています:
1. 偽装ZIPファイルによる攻撃
「国家情報と防諜原稿.zip」という名前で配布される圧縮ファイルには、54MBという異常に大きな.lnkファイルが含まれています。このファイルサイズの異常性こそが、攻撃の兆候を示す重要な指標となります。
2. ステガノグラフィーを活用した画像攻撃
最も危険なのが、JPEG画像内に悪性コードを埋め込む手法です。画像は正常に表示されるため、ユーザーは感染に気づきません。
従来のセキュリティ対策では不十分な理由
現役CSIRTメンバーとして多くのインシデント対応を行ってきた経験から言えるのは、この種の攻撃に対して従来の対策では限界があるということです。
一般的なセキュリティソフトの盲点
多くのアンチウイルスソフト
は、ファイルの拡張子やシグネチャベースでの検出に依存しています。しかし、ステガノグラフィー攻撃では正常な画像ファイルとして認識されるため、検出が困難です。
実際に、某大手企業での調査では、市販のアンチウイルスソフト
を導入していたにもかかわらず、3ヶ月間にわたって機密情報が流出し続けていた事例がありました。
個人と企業を守る具体的な対策方法
個人ユーザー向けの対策
1. 信頼できないソースからの画像ダウンロードを避ける
SNSで拡散されている「面白画像」や「話題の写真」でも、出所不明なものは開かないのが鉄則です。
2. 高度な検出機能を持つアンチウイルスソフト
の導入
従来のシグネチャベース検出だけでなく、行動ベース分析機能を持つ製品を選択することが重要です。
3. VPN
の活用
インターネット接続時にVPN
を使用することで、悪性コードが外部サーバーと通信することを防げます。
企業向けの包括的セキュリティ対策
1. 多層防御の実装
単一のセキュリティ製品に依存せず、複数の防御手段を組み合わせることが不可欠です。
2. 定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施
Webサイトの脆弱性を定期的にチェックし、攻撃の侵入経路を事前に塞ぐことが重要です。
3. 従業員教育の徹底
技術的対策だけでなく、人的要因による感染を防ぐための教育も欠かせません。
緊急時の対応手順
万が一、ステガノグラフィー攻撃を受けた疑いがある場合の対応手順:
- 感染の疑いがあるコンピューターをネットワークから即座に切断
- 実行中のプロセスを確認し、不審なプロセスを特定
- システムログの保全と分析
- フォレンジック調査の実施
- 被害範囲の特定と対策の実行
2025年のサイバー脅威トレンドと今後の対策
APT37のような高度な攻撃グループは、常に新しい手法を開発し続けています。2025年には、AI技術を悪用したより巧妙な攻撃が予想されます。
予想される脅威の進化
– AIによる自動化された標的型攻撃
– 深層学習を利用した検出回避技術
– IoTデバイスを踏み台にした大規模攻撃
これらの脅威に対抗するには、従来の「受動的防御」から「能動的脅威ハンティング」への転換が必要です。
まとめ:見えない脅威から身を守るために
APT37によるステガノグラフィー攻撃は、従来のセキュリティ常識を覆す新たな脅威です。しかし、適切な対策を講じることで、この脅威から身を守ることは可能です。
個人の方は信頼できるアンチウイルスソフト
とVPN
の導入を、企業の方は包括的なセキュリティ体制の構築と定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施を強く推奨します。
サイバー攻撃の手法が進化し続ける中、私たちも常に最新の脅威情報にアンテナを張り、適切な対策を講じ続けることが重要です。