韓国が本気で取り組むボイスフィッシング対策とは
韓国では2024年9月から、警察庁を中心とした年中無休24時間体制の「ボイスフィッシング統合対応団」が本格稼働しています。この取り組みは、日本でも急増している音声を使った詐欺犯罪(ボイスフィッシング)に対する画期的な対策として注目を集めています。
ボイスフィッシングとは、電話やメッセージを使って被害者を騙し、個人情報や金銭を詐取する犯罪手法です。最近では、AI技術を悪用した音声合成や巧妙な社会工学的手法が使われ、被害が深刻化しています。
韓国の統合対応体制の特徴
韓国の新しい対策では、以下の点が注目されます:
- 人員の大幅増強:従来43人だった常駐人員を137人に拡大
- 迅速な対応:犯罪に使用された電話番号を10分以内に緊急遮断
- AI活用:パターン分析により疑わしい口座を事前に特定
- 国際協力:中国や東南アジアとの連携強化
日本でも深刻化するボイスフィッシング被害
私がCSIRTメンバーとして対応した事例では、中小企業の経理担当者が「社長」を名乗る巧妙な音声で騙され、数百万円を送金してしまったケースがありました。犯人は事前に会社の組織図や社長の声を調査し、極めて自然な指示を出していたのです。
個人レベルでも、高齢者を狙った「オレオレ詐欺」の進化版として、AI音声合成技術を使った家族の声を模倣する手口が急増しています。
最新のボイスフィッシング手口
1. AI音声合成を使った家族なりすまし
SNSやメッセージアプリから収集した音声データを基に、家族の声を合成して緊急事態を演出する手口です。「事故を起こした」「借金返済が必要」といった内容で、冷静な判断を妨げます。
2. 企業の内部情報を悪用した標的型攻撃
会社の組織図や業務フローを事前調査し、上司や取引先を装って送金指示を出す手口です。テレワークが普及した現在、顔を合わせない業務が増えたことで被害が拡大しています。
3. 公的機関なりすまし型
税務署や年金事務所、警察などを装い、「未払い金がある」「犯罪に巻き込まれている」として個人情報や金銭を要求する手口です。
個人でできる効果的な対策
基本的な防御策
1. 通話の録音と確認
重要な通話は録音し、相手の身元確認を徹底しましょう。家族からの緊急連絡でも、一度電話を切って別の連絡手段で確認することが重要です。
2. セキュリティソフトの導入
現在のセキュリティソフトには、詐欺電話の着信を警告する機能が搭載されているものがあります。アンチウイルスソフト
を導入することで、既知の詐欺番号からの着信をブロックできます。
3. 個人情報の管理強化
SNSでの情報公開を制限し、音声データが悪用されないよう注意が必要です。また、通話中の背景音や個人的な情報の漏洩にも気をつけましょう。
通信セキュリティの向上
インターネット経由の通話アプリを使用する際は、VPN
を活用することで、通信内容の盗聴や改ざんを防ぐことができます。特に海外からの不審な通話に対しては、VPN経由での通信で身元を保護することが効果的です。
企業が取るべき対策
組織的な防御体制の構築
1. 業務フローの見直し
金銭の移動を伴う業務では、複数人による承認プロセスを必須とし、電話のみでの指示を禁止するルールを策定しましょう。
2. 従業員教育の強化
定期的に最新の詐欺手口について情報共有し、疑似攻撃訓練を実施することで、従業員のセキュリティ意識を向上させることが重要です。
3. システムセキュリティの強化
企業のWebサイトやシステムに脆弱性があると、攻撃者に内部情報を収集される可能性があります。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施し、セキュリティホールを事前に発見・修正することが重要です。
インシデント対応計画の策定
万が一ボイスフィッシング攻撃を受けた場合の対応手順を明確にし、以下の点を含む計画を策定しましょう:
- 初動対応の責任者と連絡先
- 証拠保全の手順
- 関係機関への通報方法
- 顧客や取引先への連絡方法
技術的な対策の進歩
AI技術を活用した防御
韓国の事例のように、AI技術は攻撃者だけでなく防御側でも活用されています。音声パターンの分析により、合成音声を検出する技術や、通話内容から詐欺の可能性を判定するシステムが開発されています。
ブロックチェーン技術の応用
通話履歴や送金記録の改ざん防止にブロックチェーン技術を応用する取り組みも進んでいます。これにより、事後の調査や証拠保全が容易になります。
国際協力の重要性
ボイスフィッシング犯罪は国境を越えて行われるため、韓国のような国際協力体制が不可欠です。日本でも、類似の統合対応体制の構築が期待されています。
個人レベルでも、海外からの不審な通話には特に注意が必要です。国際電話番号からの着信で身に覚えのない内容の場合は、即座に通話を切断し、関係機関に相談することが重要です。
まとめ:総合的な対策が鍵
ボイスフィッシング対策は、個人の注意だけでなく、技術的な防御、組織的な対応、そして社会全体での取り組みが必要です。韓国の統合対応団のような先進的な取り組みを参考に、日本でも包括的な対策の構築が求められています。
日常生活では、不審な通話に対する健全な疑いを持ち、適切なセキュリティツールを活用することで、多くの被害を防ぐことができます。技術の進歩とともに犯罪手口も巧妙化していますが、基本的な防御策を徹底することで、安全なデジタル生活を維持することができるでしょう。