また大きなセキュリティインシデントが発生しました。2025年9月中旬、多くの企業が導入しているSonicWallのファイアウォール製品で、設定バックアップファイルが不正アクセスを受けるという深刻な事件が起きています。
現役のCSIRTメンバーとして数々のインシデント対応に携わってきた経験から言えば、今回の事件は「氷山の一角」に過ぎません。企業だけでなく、個人のセキュリティ対策も見直すべき重要なタイミングです。
今回のSonicWall事件の深刻度
MySonicWall(MSW)のクラウドバックアップシステムが、ブルートフォース攻撃によって突破されました。攻撃者が手に入れたのは、単なるログファイルではありません。
漏えいした情報の内容:
- ファイアウォールの詳細設定
- ネットワーク構成情報
- VPNの事前共有鍵
- 認証連携の設定
- 証明書・鍵素材
- 公開サービスの設定
これらの情報は、攻撃者にとって「企業ネットワークへの侵入地図」そのものです。パスワードが暗号化されていても、設定やメタデータだけで十分に攻撃の下準備ができてしまいます。
実際のフォレンジック事例から見える脅威
私が過去に対応した類似事例では、こんなケースがありました:
事例1:中小製造業A社
ファイアウォール設定が漏えいした3週間後、VPN経由で社内システムに侵入され、製品設計図や顧客情報約2万件が暗号化されました。身代金要求額は約500万円。復旧まで1ヶ月を要し、取引先からの信頼失墜で売上が30%減少しました。
事例2:地方の医療法人B院
ネットワーク構成情報の漏えいから、電子カルテシステムへの不正アクセスが発生。患者情報約1万件が闇市場で販売され、損害賠償や対応費用で総額2,000万円の被害となりました。
ブルートフォース攻撃の恐ろしさ
今回の攻撃手法である「ブルートフォース攻撃」は、決して高度な技術ではありません。しかし、だからこそ対策を怠ると致命的な被害に繋がります。
攻撃者は以下のような手順で侵入します:
- パスワードリストを使った自動攻撃
- 弱いパスワードの総当たり
- アカウントロック機能の回避
- 認証突破後のデータ収集
特に問題なのは、多くの企業で「初期パスワードのまま」「簡単なパスワード設定」が放置されていることです。フォレンジック調査では、侵入されたアカウントの70%以上が推測可能なパスワードを使用していました。
企業が今すぐ実施すべき緊急対策
1. 認証情報の全面リセット
SonicWall製品を使用している企業は、以下を直ちに実施してください:
- 管理者パスワードの変更
- VPN接続用の事前共有鍵の再生成
- 証明書の再発行
- APIキーの無効化と再作成
2. ログの詳細調査
不審なアクセスログがないか、以下の期間を重点的にチェック:
- 2025年8月以降のVPN接続ログ
- 管理画面へのアクセス履歴
- 設定変更の履歴
- 異常な通信パターン
3. 多層防御の強化
単一の防御に依存せず、以下のような多層防御を構築:
- 多要素認証(MFA)の必須化
- アクセス権限の最小化
- ネットワークセグメンテーション
- 定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施
個人ユーザーも他人事ではない理由
「企業の話だから関係ない」と思うのは大きな間違いです。個人のデータも十分に狙われています。
実際に、企業への攻撃で得られた情報から、従業員の個人アカウントが芋づる式に侵害される事例を数多く見てきました。特に在宅勤務が増えた今、個人のセキュリティが企業のセキュリティに直結しています。
個人でできる効果的な対策
1. 信頼できるアンチウイルスソフト
の導入
マルウェアやフィッシングサイトからの保護は基本中の基本です。無料版では限界があるため、総合的な保護機能を持つ製品を選びましょう。
2. VPN
の活用
在宅勤務や外出先でのインターネット利用時、通信内容を暗号化し、IPアドレスを隠すことで攻撃者からの追跡を困難にします。
3. パスワード管理の徹底
同じパスワードの使い回しは絶対に避け、各サービスごとに複雑なパスワードを設定してください。
なぜ今、セキュリティ投資が必要なのか
フォレンジックアナリストとして断言しますが、サイバー攻撃は「いつか来るもの」ではなく「既に来ているもの」です。
被害を受けてからの対応コストは、予防投資の10倍以上になることがほとんどです。今回のSonicWall事件を教訓に、今こそセキュリティ対策を見直すべき時期です。
特に中小企業の場合、一度の大規模インシデントで経営が傾くことも珍しくありません。従業員の個人情報、顧客データ、営業秘密など、失うものは計り知れません。
まとめ:今すぐ行動を起こそう
今回のSonicWall不正アクセス事件は、現代のサイバー脅威の現実を如実に示しています。企業も個人も、もはや「自分は大丈夫」という思い込みは危険です。
重要なのは、完璧なセキュリティを目指すことではありません。攻撃者にとって「割に合わない標的」になることです。適切なセキュリティツールの導入と、基本的な対策の徹底で、多くの攻撃は防ぐことができます。
今日からでも遅くありません。あなたの大切なデータを守るために、行動を起こしてください。