企業のサイバーセキュリティ対策において、自社のIT資産を正確に把握することは基本中の基本です。しかし、多くの企業が「うちのシステムには何がどこに配置されているのか、実は正確に分からない」という状況に陥っているのが現実です。
そんな中、GMOサイバーセキュリティ byイエラエが2025年9月18日に発表した「GMOサイバー攻撃 ネットde診断 ASM」のWAF自動判別機能追加は、企業のセキュリティ管理に革命的な変化をもたらす可能性があります。
ASMツールとは?現代企業に必須のセキュリティ管理システム
ASM(Attack Surface Management)は、攻撃者の視点から自社のIT資産を洗い出し、潜在的な攻撃経路を特定するセキュリティ管理手法です。
従来の企業システム管理では、「社内から見た資産台帳」に頼ることが多く、これには重大な盲点がありました。例えば:
- 開発チームが立ち上げたテスト環境が本番稼働し続けている
- 退職した担当者が管理していたシステムが野放し状態
- 子会社や関連会社のドメインが適切に管理されていない
- クラウドサービスの設定ミスで意図せず公開されている資産
実際に私がフォレンジック調査を行った案件では、攻撃者が「企業が忘れていた古いWebサイト」を踏み台にして本格的な侵入を果たしていたケースがありました。この企業は「メインサイトは完璧にセキュリティ対策されている」と自信を持っていましたが、3年前に作成して放置されていたキャンペーンサイトが脆弱性だらけだったのです。
WAF自動判別機能の革新性:167種類対応の意味
今回追加されたWAF自動判別機能は、単なる機能追加以上の価値があります。
対応WAF製品の幅広さが示す実用性
対応している主要WAF製品を見ると:
- クラウド系:AWS CloudFront WAF、Azure Application Gateway、Cloudflare
- アプライアンス系:F5 BIG-IP、Fortinet FortiWeb、Palo Alto Next Gen Firewall
- SaaS系:Imperva、Akamai Kona Site Defender、Sucuri
- オープンソース系:ModSecurity
この167種類という数字は、ただの製品対応数ではありません。企業の複雑なIT環境の現実を反映しています。
なぜWAFの可視化が重要なのか
フォレンジック調査の現場で頻繁に遭遇するのが「WAFがあると思っていたけど、実際には機能していなかった」というケースです。
具体的な事例をご紹介しましょう:
ケース1:設定ミスによるWAFバイパス
ある製造業の企業で、WAFは導入されていましたが、開発チームが「テストしやすいように」と一部のIPアドレスをホワイトリストに登録していました。攻撃者はこの設定の隙をついて、WAFをバイパスしてSQLインジェクション攻撃を実行していました。
ケース2:複数WAFの管理不備
グループ企業では、子会社ごとに異なるWAF製品を使用していましたが、親会社のセキュリティ担当者は全体像を把握できていませんでした。結果として、一つの子会社のWebサイトが攻撃を受け、そこを足がかりにグループ全体のネットワークに侵入されました。
IT資産管理の効率化がもたらすセキュリティ向上
脆弱性トリアージの自動化
WAFが自動判別されることで、脆弱性の優先順位付けが格段に効率化されます。
例えば、同じWebサイトの脆弱性でも:
- WAF保護あり:中程度のリスク(WAFのルール更新で一時的に対応可能)
- WAF保護なし:高リスク(即座にパッチ適用が必要)
この判断が自動化されることで、限られたセキュリティ担当者のリソースを最も重要な箇所に集中できます。
継続的なモニタリングの実現
定期的なセキュリティ診断により、以下のような変化を検知できます:
- 新しく追加されたWebサイトやサービス
- WAF設定の変更や無効化
- ドメインの追加や変更
- クラウドサービスの設定変更
個人ユーザーも無視できないWAFとセキュリティ対策
企業レベルの話が中心でしたが、個人ユーザーにとってもWebセキュリティは重要な課題です。
個人のWebサイトやブログを運営している場合、WAFサービスを利用することで:
- SQLインジェクション攻撃からの保護
- クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃の防止
- DDoS攻撃による可用性の維持
- マルウェア配布サイトへの改ざん防止
特に、WordPressなどのCMSを使用している場合、アンチウイルスソフト
との組み合わせで多層防御を実現することが推奨されます。
また、Webサイト閲覧時のセキュリティ向上には、VPN
の利用も効果的です。公衆Wi-Fiでの通信暗号化や、地理的制限の回避だけでなく、マルウェアサイトへのアクセスブロック機能を持つVPNサービスもあります。
企業が今すぐ実施すべきアクション
1. IT資産の棚卸し実施
まずは自社のIT資産を正確に把握しましょう。特に以下の点に注意:
- 忘れられているサブドメインやテストサイト
- クラウドサービスの設定状況
- WAFを含むセキュリティ製品の稼働状況
- SSL証明書の有効期限と設定
2. 定期的な脆弱性診断の実施
Webサイト脆弱性診断サービス
を活用して、定期的にWebサイトの脆弱性をチェックしましょう。特に重要なポイント:
- 既知の脆弱性に対するパッチ適用状況
- WAF設定の有効性確認
- 新しい脅威に対する防御力評価
- コンプライアンス要件への適合性
3. インシデント対応計画の策定
万が一攻撃を受けた場合の対応計画を事前に策定しておくことが重要です:
- インシデント発生時の連絡体制
- 証拠保全手順の確立
- 業務継続のための代替手段
- 外部専門家との連携体制
まとめ:Attack Surface Managementの新時代
GMOサイバーセキュリティのASMツールへのWAF自動判別機能追加は、企業のサイバーセキュリティ管理に新たな可能性を開いています。
167種類のWAF対応という包括性は、現実の複雑な企業IT環境に対応した実用的なソリューションであることを示しています。これにより、セキュリティ担当者は「見えない脅威」を「見える化」し、限られたリソースを最も効果的に活用できるようになります。
サイバー攻撃が日々高度化する中で、「攻撃者の視点」からの資産管理は、もはや選択肢ではなく必須の取り組みとなっています。今回の機能追加が、多くの企業のセキュリティレベル向上に寄与することを期待しています。
個人ユーザーの皆さんも、この機会に自身のオンラインセキュリティを見直してみてください。アンチウイルスソフト
やVPN
を活用した多層防御で、安全なインターネット環境を構築しましょう。
一次情報または関連リンク
GMOサイバーセキュリティ、「GMOサイバー攻撃 ネットde診断 ASM」にWAFの自動判別・タグ付け表示機能を追加 – ScanNetSecurity