2025年9月30日、アサヒグループホールディングス(HD)が深刻なサイバー攻撃を受け、全国約30カ所の工場で生産停止に追い込まれるという衝撃的な事態が発生しました。このインシデントは、現代企業がいかにサイバー脅威に脆弱であるかを如実に示しています。
アサヒグループを襲ったサイバー攻撃の深刻度
今回のサイバー攻撃により、アサヒグループでは以下の重大な影響が発生しています:
- 全国約30工場の多くで生産停止
- ビールや飲料の受注・出荷業務が完全停止
- コールセンター業務も停止
- 10月1日予定のビール新商品発表会が中止
- 復旧の目処が立たない状況
フォレンジックアナリストとして数多くのサイバー攻撃事例を調査してきた経験から言えば、これほど広範囲かつ長期間にわたってシステムが停止するケースは、ランサムウェア攻撃やAPT(高度持続的脅威)攻撃の可能性が高いと考えられます。
企業を狙うサイバー攻撃の実態
近年、企業を標的としたサイバー攻撃は激化の一途を辿っています。私がCSIRTで対応した事例を見ても、以下のような特徴があります:
製造業を狙う攻撃の巧妙化
製造業は特にサイバー攻撃者にとって魅力的な標的となっています。なぜなら、生産停止による経済的損失が膨大で、身代金の支払いに応じる可能性が高いからです。
実際に対応した中小製造業の事例では、VPNの脆弱性を突かれてランサムウェアに感染し、3週間もの間生産が完全停止。復旧費用だけで数千万円を要したケースがありました。
個人・中小企業が今すぐ実施すべき対策
アサヒグループのような大企業でさえ、これほどの被害を受ける時代です。個人や中小企業はより一層の注意が必要です。
基本的なセキュリティ対策
1. アンチウイルスソフト
の導入と更新
多くの企業では、エンドポイント保護が不十分なケースが散見されます。最新の脅威に対応できるアンチウイルスソフト
の導入は必須です。特に、ランサムウェア対策機能を備えた製品を選択することが重要です。
2. VPN
による通信の保護
リモートワークが一般的になった今、企業の機密情報が危険にさらされるリスクが高まっています。VPN
を使用することで、通信を暗号化し、不正アクセスから情報を守ることができます。
Webサイトを持つ企業の必須対策
3. Webサイト脆弱性診断サービス
の実施
多くのサイバー攻撃は、Webサイトの脆弱性を突いて行われます。定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
により、セキュリティホールを早期発見・修正することが重要です。
フォレンジック調査から見えるサイバー攻撃の傾向
私が担当したインシデント対応の中で、特に印象深い事例をご紹介します。
事例1:地方の食品メーカーのケース
従業員50名程度の食品メーカーが、標的型メールによりランサムウェアに感染。生産管理システムが暗号化され、2週間の生産停止を余儀なくされました。幸い、オフラインバックアップがあったため完全復旧できましたが、売上損失は約5,000万円に達しました。
事例2:ITサービス企業のサプライチェーン攻撃
中小のITサービス企業が攻撃され、そこから取引先の大手企業にも被害が拡大したケースです。最初の侵入点は古いVPNソフトウェアの脆弱性でした。
今後の対策とまとめ
アサヒグループの事例は、どんな企業でもサイバー攻撃の標的になり得ることを示しています。特に以下の点に注意が必要です:
- 基本的なセキュリティ対策の徹底(アンチウイルスソフト
、VPN
の導入)
- 定期的な脆弱性診断(Webサイト脆弱性診断サービス
)
- 従業員のセキュリティ意識向上
- インシデント対応計画の策定
- 定期的なバックアップとその復旧テスト
サイバーセキュリティは「やられてからでは遅い」というのが、フォレンジックアナリストとしての実感です。今回のアサヒグループの事例を教訓に、今すぐにでもセキュリティ対策の見直しを行うことを強くお勧めします。