サイバー犯罪の新たな脅威:SVGファイルを使った巧妙なフィッシング攻撃
最近のサイバー攻撃の世界では、従来の手法を大幅にアップデートした新しい脅威が次々と登場しています。特に注目すべきは、**SVGファイルを悪用したフィッシング攻撃**の急増です。
私がフォレンジックアナリストとして実際に調査した事例でも、「なぜこんな手の込んだ攻撃に引っかかってしまったのか」と後悔する被害者の方を数多く見てきました。しかし、これらの新型攻撃は本当に巧妙で、セキュリティに詳しい方でも騙される可能性があります。
実際に起きた恐怖の攻撃事例
2025年9月に確認されたケースでは、攻撃者がウクライナ国家警察を装ったメールを送信し、添付されたSVGファイルを開かせる手口が使われました。このファイルを開くと、まさに本物のAdobe Readerそっくりの偽インターフェースが表示されるのです。
被害者は「公式な文書だ」と信じ込み、パスワード保護されたアーカイブをダウンロードしてしまいます。そのアーカイブには**Amateraステーラー**と**PureMiner**という危険なマルウェアが仕込まれており、一度感染すると:
- ブラウザに保存されたパスワードやクレジットカード情報
- 仮想通貨ウォレットの秘密鍵
- システム情報や個人ファイル
これらの重要情報が全て盗み取られてしまいます。
なぜSVGファイルが狙われるのか?
SVG(Scalable Vector Graphics)ファイルは、一見すると無害な画像ファイルに見えますが、実はHTML同様にJavaScriptを埋め込むことができます。多くのアンチウイルスソフト
がSVGファイルに対する検出率が低いことを攻撃者は熟知しており、これを悪用しているのが現状です。
企業が直面している深刻な問題
私が最近対応した中小企業の事例では、営業部門の担当者が「見積依頼」を装ったフィッシングメールに引っかかり、GuLoaderを経由してMassLoggerに感染してしまいました。
この企業では:
- 顧客データベースへの不正アクセス
- 社内メールシステムの乗っ取り
- 取引先への二次被害拡大
という深刻な状況に陥り、復旧に3週間、損害額は約200万円に上りました。
新たな脅威:セルラールーターを悪用したスミッシング攻撃
さらに深刻なのが、セルラールーターのAPIを悪用したスミッシング(SMS phishing)攻撃です。攻撃者はMilesight製の産業用ルーターの脆弱性(CVE-2023-43261)を突いて、**1万9,000台以上のルーター**を乗っ取っています。
この攻撃では、ベルギー政府の公式サイトを模倣した偽サイトへ誘導するSMSが大量送信されており、受信者は「政府からの重要な通知だ」と信じて個人情報を入力してしまいます。
YouTube・Google広告を悪用した新手法
従来のFacebook広告に加えて、最近ではYouTubeとGoogle広告も悪用されています。攻撃者は正規企業のアカウントを乗っ取り、TradingView Premiumなどの人気取引プラットフォームへの「無料アクセス」を餌にユーザーを騙しています。
限定公開動画の概要欄に仕込まれたリンクから、最終的にJSCEALマルウェアがダウンロードされ、システムに常駐して継続的に情報を盗み続けます。
個人ユーザーができる効果的な対策
これらの脅威から身を守るためには、以下の対策が不可欠です:
1. 強力なアンチウイルスソフト の導入
最新の脅威に対応できるアンチウイルスソフト
を必ずインストールしましょう。特にSVGファイルやスクリプトベースの攻撃を検出できる製品を選ぶことが重要です。
2. VPN で通信を保護
公共WiFiや不審なネットワークを使用する際は、必ずVPN
を利用して通信を暗号化しましょう。フィッシングサイトへのアクセスをブロックする機能付きのVPN
がおすすめです。
3. 添付ファイルの慎重な取り扱い
- 予期しない添付ファイルは開かない
- SVGファイルは特に注意深く確認
- 送信者の身元を別の方法で確認
- 怪しいと感じたら専門家に相談
企業向けの総合的な対策
技術的対策
- エンドポイント検出・応答(EDR)ソリューションの導入
- メールセキュリティゲートウェイの強化
- Webサイト脆弱性診断サービス
による定期的な脆弱性チェック
- ネットワークセグメンテーションの実装
組織的対策
- 従業員向けフィッシング訓練の定期実施
- インシデント対応計画の策定・更新
- セキュリティ意識向上プログラムの継続
- 第三者によるセキュリティ監査
まとめ:今すぐ行動を起こそう
SVGファイルを使ったフィッシング攻撃は、従来の対策では防ぎきれない新しい脅威です。しかし、適切な知識と対策を講じれば、十分に防御できます。
個人の方は信頼できるアンチウイルスソフト
とVPN
の導入を、企業の方はWebサイト脆弱性診断サービス
による定期的なセキュリティチェックを今すぐ検討してください。
サイバー攻撃は「まさか自分が」という油断を狙って襲ってきます。被害に遭ってから後悔するよりも、今すぐ対策を講じることが何よりも重要です。