2025年10月、アサヒグループホールディングスがランサムウェア攻撃によるシステム障害を公表しました。この事件は、日本の大企業でもサイバー攻撃の脅威から逃れられない現実を改めて浮き彫りにしています。
現役のCSIRTメンバーとして数多くのランサムウェア事件を調査してきた経験から、今回の事例を詳しく分析し、個人や中小企業が今すぐ実践できる対策をお伝えします。
アサヒグループのランサムウェア攻撃、何が起こったのか
アサヒグループは2025年9月にサイバー攻撃によるシステム障害を報告していましたが、10月3日になって攻撃がランサムウェアによるものだったことを明らかにしました。
同社は緊急事態対策本部を立ち上げ、被害拡大を防ぐためにシステムの遮断措置を実施。詳細な攻撃手法については、さらなる被害拡大を防ぐ観点から公表を控えるとしています。
この対応は、サイバーセキュリティインシデント対応の基本に忠実で、非常に適切な判断だったと評価できます。攻撃手法を詳細に公表すると、模倣犯による同様の攻撃を誘発するリスクがあるからです。
ランサムウェア攻撃の実態とフォレンジック分析
私がフォレンジック調査を担当した中小企業のケースでは、従業員が受信したフィッシングメールに添付されたファイルを開いたことが感染の原因でした。その企業は製造業でしたが、わずか数時間で全社のファイルサーバが暗号化され、生産ラインが完全停止してしまいました。
ランサムウェアの特徴は以下の通りです:
- 高速な感染拡大:ネットワーク内を横移動し、短時間で複数のシステムに感染
- データの暗号化:重要なファイルを人質に取り、身代金を要求
- 二重脅迫:暗号化に加えて、データ流出も脅迫材料に使用
- 業務停止:システムが使用不能になり、事業継続が困難に
個人ユーザーが今すぐできる対策
個人でも企業と同様のリスクにさらされています。特に在宅勤務が増えた現在、家庭のネットワークから企業システムにアクセスする機会が多く、個人レベルでのセキュリティ対策が企業防御の最前線となっています。
1. 信頼できるアンチウイルス対策の導入
最新のアンチウイルスソフト
では、従来のシグネチャベースの検出に加え、AI技術を活用した行動分析により、未知のランサムウェアも検出できるようになっています。
特に重要なのは、リアルタイム保護機能です。私が調査した事例では、アンチウイルスソフト
が導入されていた端末では感染を水際で阻止できていました。
2. 安全なリモートアクセス環境の構築
在宅勤務でのセキュリティリスクを軽減するには、信頼できるVPN
の利用が不可欠です。公衆Wi-Fiや家庭のネットワーク環境では、通信内容が盗聴される可能性があります。
VPN
を使用することで、通信を暗号化し、攻撃者による中間者攻撃やデータ傍受を防ぐことができます。
中小企業が実践すべき対策
中小企業では大企業のような潤沢なセキュリティ予算を確保することが困難です。しかし、効果的な対策は存在します。
1. Webサイトの脆弱性対策
ランサムウェア攻撃の多くは、企業のWebサイトの脆弱性を突いて行われます。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、攻撃者が悪用する可能性のあるセキュリティホールを事前に発見・修正できます。
実際に調査したケースでは、WordPressの古いプラグインの脆弱性を悪用され、そこからランサムウェアが侵入していました。定期的な脆弱性診断により、このような攻撃を未然に防ぐことが可能です。
2. バックアップ戦略の見直し
ランサムウェア対策で最も重要なのは、実はバックアップです。しかし、単純にバックアップを取るだけでは不十分。以下の「3-2-1ルール」を推奨します:
- 3つのコピー:オリジナル+バックアップ2つ
- 2つの異なるメディア:ハードディスクとクラウドなど
- 1つはオフサイト:物理的に離れた場所に保管
インシデント発生時の対応手順
万が一ランサムウェアに感染した場合の対応手順を事前に準備しておくことが重要です:
- 即座にネットワークから切断:感染拡大を防ぐ
- 専門家への連絡:CSIRT や セキュリティベンダーに相談
- 証拠保全:フォレンジック調査のためのデータ保全
- 関係者への報告:顧客、取引先、監督官庁への適切な報告
- 復旧作業:バックアップからのシステム復旧
まとめ:今すぐ行動を起こそう
アサヒグループの事例は、どんな大企業でもランサムウェア攻撃の標的になる可能性があることを示しています。個人も中小企業も例外ではありません。
重要なのは、攻撃を受けてから対策するのではなく、事前に適切な防御策を講じることです。アンチウイルスソフト
、VPN
、Webサイト脆弱性診断サービス
など、現在利用可能な技術を活用し、多層防御を構築することが被害を最小限に抑える鍵となります。
サイバー攻撃は「もし」ではなく「いつ」起こるかの問題です。今すぐ行動を起こし、大切なデータと事業を守りましょう。
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