2024年5月、日本のサイバーセキュリティ体制を大きく変える「能動的サイバー防御法」が成立しました。この新法により、政府と民間企業の連携が強化され、サイバー攻撃への対応が大きく前進することになります。
平将明サイバー安全保障担当大臣は「日本を代表するような企業ですら、一企業では守り切れない現状にある」と述べ、官民連携の重要性を強調しています。実際、日本のスマートフォンやパソコンには約13秒に1回のペースでサイバー攻撃が行われているという驚愕の事実があります。
能動的サイバー防御とは何か
従来の「受動的」な防御から一歩進んで、政府が積極的にサイバー攻撃に対処する仕組みが「能動的サイバー防御」です。この新しい枠組みでは以下のような対策が可能になります:
- インフラ事業者からの攻撃報告義務化
- 通信事業者からの情報提供
- 攻撃元サーバーへの政府による直接対処
- 警察・自衛隊によるサイバー攻撃の無害化
個人への影響は避けられない
この法律は主に政府機関やインフラ事業者を対象としていますが、個人レベルでの影響も無視できません。平大臣も「自分のパソコンやIoT端末、カメラが使われたりする。1人1人の意識で、かなり改善できるものもある」と個人の意識向上の重要性を訴えています。
実際のサイバー攻撃事例から学ぶ
フォレンジック調査の現場では、個人や中小企業が被害に遭うケースを数多く目にします。例えば:
ランサムウェア攻撃の事例
地方の中小製造業A社では、従業員が不審なメールの添付ファイルを開いたことで、社内システム全体がランサムウェアに感染。生産ラインが完全停止し、復旧までに2週間を要しました。攻撃者は身代金として約500万円を要求し、結果的にデータ復旧とシステム再構築に総額1,200万円の費用が発生しました。
情報漏洩事例
個人事業主のB氏は、古いバージョンのアンチウイルスソフト
を使用していたため、マルウェアによって顧客情報約3,000件が漏洩。損害賠償と信用失墜により、事業継続が困難になるケースもありました。
セキュリティクリアランス制度の導入
新法では「セキュリティクリアランス」制度も活用されます。これは機密情報にアクセスできる資格を政府が認定する制度で、資格保有者のみが重要な脅威情報を共有できるようになります。
この制度により、より詳細な攻撃者の背景や意図についての情報共有が可能になり、防御体制の強化が期待されています。
個人ができる現実的な対策
政府レベルでの対策が強化される一方で、個人レベルでの対策も不可欠です。現役CSIRTメンバーとして、以下の対策を強く推奨します:
1. 信頼性の高いアンチウイルスソフト の導入
無料のセキュリティソフトでは検出できない高度な脅威が増加しています。多層防御機能を持つ有料のアンチウイルスソフト
は、未知の脅威に対しても高い防御力を発揮します。
2. VPN の活用
公衆Wi-Fiや不安定なネットワーク環境では、通信の盗聴や改ざんのリスクが高まります。信頼性の高いVPN
サービスを利用することで、通信の暗号化と匿名性の確保が可能です。
3. 定期的なシステム更新
OSやソフトウェアの脆弱性を狙った攻撃が多発しています。自動更新を有効にし、常に最新の状態を維持することが重要です。
新時代への備え
平大臣は「飛行機が飛ばない、銀行のネットの仕組みが不具合を起こす、暗号資産が抜かれてしまうというのは我が事」と述べ、サイバーセキュリティが個人の生活に直結する問題であることを強調しています。
一年半後には政府への一元的な報告窓口が設置される予定で、官民連携のエコシステムが本格稼働します。この新しい防御体制の効果を最大化するためには、個人レベルでの意識向上と適切なセキュリティ対策の実施が不可欠です。
サイバー攻撃の手法は日々高度化しており、「自分は大丈夫」という思い込みは非常に危険です。政府レベルでの対策強化を機に、個人レベルでのセキュリティ対策も見直してみてはいかがでしょうか。