多要素認証も突破する「リアルタイムフィッシング」の恐怖
2025年に入り、サイバーセキュリティ業界に激震が走っています。これまで「絶対に安全」とされてきた多要素認証(MFA)が、新たな攻撃手法によって無力化されているのです。
私がCSIRTのアナリストとして調査した中でも、特に深刻な被害をもたらしているのが「リアルタイムフィッシング」と呼ばれる攻撃です。従来のフィッシング詐欺とは根本的に異なり、ワンタイムパスワード(OTP)すら突破してしまう恐ろしい手口なのです。
リアルタイムフィッシングの巧妙な仕組み
リアルタイムフィッシングは、まさに「中間者攻撃」の典型例です。攻撃者は正規のWebサイトと正規ユーザーの間に潜み、以下のような手順で攻撃を実行します:
攻撃の流れ
- 偽サイトの準備:攻撃者が正規サイトそっくりの詐欺サイトを作成
- ユーザー誘導:メールやSNSで偽サイトへ誘導
- 認証情報の取得:ユーザーがパスワードを入力すると即座に取得
- リアルタイム悪用:取得したパスワードで攻撃者が正規サイトにログイン試行
- OTPの罠:正規サイトがSMSでOTPを送信すると、偽サイトでOTP入力を要求
- 不正ログイン完了:取得したOTPを自動的に正規サイトに入力
最も恐ろしいのは、この一連の作業が「完全に自動化」されている点です。トレンドマイクロの調査によると、詐欺サイトに入力した瞬間、即座に悪用される仕組みが構築されています。
実際に発生した被害事例
金融業界を狙った具体的事例
私がフォレンジック調査で確認した事例では、以下のような深刻な被害が発生しています:
大和証券の事例(2025年7月)
大和証券がOTP方式の多要素認証を必須化したわずか数日後、その対策を狙い撃ちしたリアルタイムフィッシングサイトが出現。攻撃者は新しいセキュリティ対策を事前に研究し、即座に対応する準備を整えていました。
三菱UFJ銀行を偽装した攻撃
同時期に確認された三菱UFJ銀行を偽装したリアルタイムフィッシングでは、被害者の口座から数百万円が不正送金される事件も発生。従来のフィッシング対策では完全に無力でした。
なぜOTP方式では太刀打ちできないのか
OTP突破の2つの致命的弱点
現在主流のOTP方式には、リアルタイムフィッシングに対して2つの致命的な弱点があります:
- 認証情報の入力可能性:偽サイトでも正規サイトと同じように認証情報を入力できる
- 時間差の悪用:OTPの有効期限内(通常30秒~数分)であれば悪用可能
個人ユーザーができる具体的対策
1. URLの厳格な確認
ログイン前に必ずアドレスバーのURLを確認してください。特に以下の点をチェック:
– HTTPSの鍵マークがあるか
– ドメイン名が正確か(typosquattingに注意)
– 証明書の発行者情報
2. 多層防御の構築
アンチウイルスソフト
を導入することで、悪意のあるサイトへのアクセス自体をブロックできます。最新のアンチウイルスソフトは、リアルタイムフィッシングサイトのデータベースを常時更新しており、アクセス前に警告を表示します。
3. ネットワークレベルでの保護
VPN
を使用することで、通信経路自体を暗号化し、中間者攻撃のリスクを大幅に削減できます。特にフリーWi-Fiを使用する際には必須です。
企業が取るべき対策
Webサイト運営者の責務
企業のWebサイト管理者として、以下の対策は必須です:
1. FIDO認証の導入
パスワードレス認証や生体認証を活用し、フィッシング攻撃自体を無効化する
2. 継続的な脆弱性監視
Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施し、攻撃者に狙われる前に脆弱性を発見・修正する
3. ユーザー教育の強化
従業員や顧客に対するセキュリティ教育を定期的に実施
今後のセキュリティトレンド
パスワードレス認証の普及
リアルタイムフィッシング攻撃の台頭により、パスワード自体を使わない認証方式が急速に普及しています。WebAuthn(Web Authentication)やFIDO2プロトコルを活用した認証では、秘密鍵がデバイスから外部に送信されないため、フィッシング攻撃が根本的に無効化されます。
AIを活用した検知システム
機械学習を活用したリアルタイム検知システムも注目されています。ユーザーの行動パターンや通信の異常を即座に検知し、不正アクセスを未然に防ぐ技術です。
まとめ:多層防御でリスクを最小化
リアルタイムフィッシング攻撃は、従来のセキュリティ常識を根底から覆す脅威です。しかし、適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に削減できます。
個人ユーザーの方は、信頼性の高いアンチウイルスソフト
とVPN
の組み合わせによる多層防御が効果的です。企業の方は、定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
と最新の認証技術導入を検討してください。
サイバー攻撃の手法は日々進化していますが、私たちの防御策も同じように進化させていく必要があります。「自分は大丈夫」という過信が最も危険な行為であることを、肝に銘じておきましょう。
一次情報または関連リンク
リアルタイムフィッシングでは、正規のWebサイトと正規のユーザーの間に攻撃者が入り込んでわなを張る – 日経クロステック