2025年6月13日、日本私立学校振興・共済事業団の学校教職員向け健康情報サイト「Pep Up(ペップアップ)」で不正アクセスが発生し、3名のアカウントが不正ログインされる事案が発生しました。現役CSIRTアナリストの視点から、この事件の詳細と個人ができるセキュリティ対策について解説します。
事件の概要とフォレンジック分析
今回の攻撃手法は「パスワードリスト攻撃」と呼ばれるもので、過去の情報漏洩で流出したID・パスワードの組み合わせを自動的に試行する攻撃です。私がフォレンジック調査で扱った類似事案では、以下のような特徴がありました:
- 短時間に数千から数万回のログイン試行
- 世界各国のIPアドレスからの分散攻撃
- 成功率は通常1-3%程度だが、被害は甚大
幸い今回は、JMDCが継続的な監視体制を敷いていたため早期発見に至り、健診結果の閲覧やポイント不正利用などの二次被害は防げました。しかし、これは氷山の一角に過ぎません。
なぜ二段階認証未設定のアカウントが狙われたのか
注目すべきは、不正アクセスされた3つのアカウントがすべて二段階認証を設定していなかった点です。攻撃者は効率を重視するため、セキュリティの弱い標的を優先的に狙います。
私が調査した中小企業の事例では、従業員の個人アカウントから社内システムへの侵入を許した案件が複数ありました。特に健康管理サイトのような機微な情報を扱うサービスでは、以下のリスクがあります:
- 個人の健康情報の漏洩
- なりすましによる不正利用
- 関連する他サービスへの侵入の足がかり
個人でできる効果的なセキュリティ対策
1. パスワード管理の徹底
パスワードリスト攻撃の対策として最も効果的なのは、サービスごとに異なる強固なパスワードを使用することです。しかし、人間の記憶力には限界があるため、現実的な対策が必要です。
私が個人事業主のクライアントに推奨しているのは、以下の組み合わせです:
- 基本となる覚えやすいパスワード
- サービス名を組み込んだ変化部分
- 記号と数字の組み合わせ
2. 二段階認証の必須設定
今回の事件でも明らかなように、二段階認証は極めて有効な防御手段です。Google Authenticatorやその他の認証アプリを活用し、可能な限りすべてのアカウントで設定しましょう。
3. セキュリティソフトによる総合防御
パスワード攻撃以外にも、マルウェアによる情報窃取やフィッシング攻撃など、個人を狙う脅威は多様化しています。アンチウイルスソフト
は、これらの脅威を包括的に防御する重要なツールです。
特に以下の機能が重要です:
- リアルタイムスキャン
- フィッシングサイトの検知・ブロック
- 不審な通信の監視
- パスワード管理機能
プライバシー保護の重要性
健康情報のような機微なデータを扱うサイトにアクセスする際は、通信経路の保護も重要です。特に公共Wi-Fiを使用する場合、通信内容が第三者に傍受されるリスクがあります。
VPN
を使用することで、通信を暗号化し、真の送信元を隠すことができます。これにより、以下のメリットがあります:
- 通信内容の暗号化
- IPアドレスの秘匿
- 地理的制限の回避
- ISPからの監視回避
中小企業経営者が注意すべき点
従業員の個人アカウントへの攻撃は、企業にとっても深刻なリスクです。私が対応した事例では、従業員の個人メールアカウントが乗っ取られ、そこから取引先への詐欺メールが送信された案件もありました。
企業として取り組むべき対策:
- 従業員向けセキュリティ教育の実施
- 業務用と個人用アカウントの分離
- 定期的なセキュリティチェック
- インシデント対応計画の策定
今後の展望と対策
サイバー攻撃の手法は日々進化しており、パスワードリスト攻撃も例外ではありません。AI技術の発達により、より巧妙で効率的な攻撃が予想されます。
個人レベルでの対策強化が急務であり、セキュリティ意識の向上と適切なツールの活用が不可欠です。今回の事件を教訓に、自分自身のセキュリティ対策を見直してみてください。
まとめ
日本私立学校振興・共済事業団の「Pep Up」への不正アクセス事件は、個人のセキュリティ対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。二段階認証の設定、強固なパスワードの使用、そして包括的なセキュリティツールの活用により、これらの脅威から身を守ることができます。
セキュリティは一度設定すれば終わりではなく、継続的な取り組みが必要です。今日から始められる対策を一つずつ実践し、安全なデジタル生活を送りましょう。