2025年6月、名古屋大学で衝撃的な個人情報漏えい事件が発生しました。教員がサポート詐欺の被害に遭い、なんと1,626名分の学生・生徒の個人情報が漏えいした可能性があるというのです。
現役のCSIRTメンバーとして、この事件を詳しく分析すると、非常に典型的かつ巧妙なサイバー攻撃の手口が使われていることが分かります。今回は、この事件の詳細と、個人や中小企業が同様の被害に遭わないための対策について解説していきます。
事件の詳細:サポート詐欺の巧妙な手口
今回の事件は、4月13日に名古屋大学人文学研究科の教員がパソコンでWebサイトを閲覧中に発生しました。突然、大音量の警告音が鳴り響き、画面に「ウイルスを検出した」という警告が表示されたのです。
この警告画面では、アンチウイルスソフト
によるウイルス駆除とサポート窓口への電話連絡が促されていました。残念ながら、教員はこの偽の指示に従って操作を行ってしまい、結果的に第三者による遠隔操作を許してしまったのです。
漏えいした情報の内容
- 学生・生徒1,626名分の個人情報
- 氏名、学籍番号
- 科目成績
- メールアドレス
- 附属学校生徒969名分の情報も含む
フォレンジック分析:なぜこの攻撃は成功したのか?
フォレンジックアナリストとして過去に類似事例を数多く調査してきましたが、今回の攻撃が成功した理由は以下の通りです:
1. 心理的プレッシャーの活用
攻撃者は大音量の警告音と緊急性を演出する警告画面により、ユーザーを焦らせる手法を使いました。冷静な判断力を奪うことで、偽の指示に従わせることに成功したのです。
2. 権威の偽装
偽の警告画面では、正規のアンチウイルスソフト
からの警告であるかのように装っていました。多くの人が信頼するセキュリティソフトの名前を悪用することで、信憑性を高めていたのです。
3. 遠隔操作の許可誘導
「サポートのため」という名目で遠隔操作ソフトのインストールを誘導し、パソコンへの完全なアクセス権を獲得しました。
実際の被害事例から学ぶ
私が過去に調査した中小企業の事例では、同様のサポート詐欺により以下のような被害が発生しています:
事例1:製造業A社(従業員50名)
経理担当者が偽の警告に騙され、顧客情報約3,000件が漏えい。復旧作業とお詫び対応で約500万円の損失が発生しました。
事例2:サービス業B社(従業員20名)
社長自身が被害に遭い、会社の機密情報と取引先情報が流出。信頼失墜により複数の取引先との契約が打ち切られました。
個人・中小企業ができる対策
1. 信頼できるアンチウイルスソフト の導入
正規のアンチウイルスソフト
を使用していれば、このような偽警告に騙される可能性は大幅に減ります。常に最新の定義ファイルに更新し、リアルタイム保護を有効にしておくことが重要です。
2. VPN の活用
インターネット接続時にVPN
を使用することで、悪意のあるサイトへのアクセスをブロックできます。特に公共のWi-Fiを使用する際は必須の対策です。
3. 従業員教育の徹底
技術的な対策だけでなく、人的な対策も重要です。定期的にサイバーセキュリティ研修を実施し、最新の攻撃手法について学習することが必要です。
4. 緊急時の対応手順の策定
万が一の際に冷静に対応できるよう、以下の手順を社内で共有しておくことをお勧めします:
- 怪しい警告が表示されたら、まず深呼吸
- 電話をかける前に、必ず上司やIT担当者に相談
- 遠隔操作ソフトのインストールは絶対に行わない
- 被害を受けた可能性がある場合は、即座にネットワークを遮断
CSIRT目線での推奨対策
現役CSIRTメンバーとして、特に中小企業の経営者の方々に強くお勧めしたいのが、「多層防御」の考え方です。
一つの対策に頼るのではなく、複数の防御策を組み合わせることで、攻撃者の侵入を阻止する確率を高めることができます。信頼できるアンチウイルスソフト
とVPN
の組み合わせは、この多層防御の基本となる重要な要素です。
まとめ
名古屋大学の事件は、決して他人事ではありません。サポート詐欺は年々巧妙化しており、どんなに注意深い人でも被害に遭う可能性があります。
重要なのは、適切なセキュリティ対策を講じることと、万が一の際に冷静に対応できる準備をしておくことです。特に個人情報を扱う機会の多い中小企業の皆様には、今回の事件を教訓として、ぜひセキュリティ対策の見直しを行っていただきたいと思います。
幸い、現時点では漏えいした情報の不正利用は確認されていませんが、今後も注意深く状況を監視する必要があります。皆様も同様の被害に遭わないよう、今日からできる対策を始めてみてください。