2025年10月、大阪府警で発生した機密情報漏洩事件は、私たちにとって非常にショッキングな出来事でした。法の執行を担う警察組織内部で、現役の警部補が元同僚の依頼により個人の金融情報を不正に取得・漏洩していたのです。
この事件は、どんなに厳格な組織であっても「内部脅威」のリスクは存在することを改めて浮き彫りにしました。現役CSIRTメンバーとして数多くのインシデント対応を経験してきた立場から、この事件の詳細と、個人・企業が今すぐできるセキュリティ対策について詳しく解説します。
事件の詳細と手口の分析
今回の事件では、羽曳野署の警部補草川亮央容疑者(56)が、元府警職員で現在は行政書士として活動する道沢正克容疑者(68)からの依頼を受け、以下のような手順で個人情報を不正取得しました:
- 道沢容疑者が草川容疑者に対し、第三者の預金残高等の情報を依頼
- 草川容疑者が「刑事訴訟法に基づく捜査関係事項照会書」を使用
- 正当な捜査を装って金融機関から情報を取得
- 取得した機密情報を道沢容疑者に漏洩
特に注目すべきは、情報のやり取りが道沢容疑者の行政書士事務所内で行われていたという点です。これは単なる個人的な不正行為を超え、組織的な情報漏洩の可能性を示唆しています。
内部脅威が企業に与える深刻な影響
フォレンジック調査を行う中で、私は数多くの内部脅威による情報漏洩事件を目の当たりにしてきました。実際の事例をいくつか紹介しましょう:
製造業A社のケース
退職予定の技術者が、競合他社への転職前に設計図面や顧客リストを持ち出した事件。被害額は推定3億円を超え、同社の競争優位性が大きく損なわれました。
IT企業B社のケース
システム管理者権限を悪用した従業員が、顧客の個人情報15万件を外部に売却。損害賠償請求や信用失墜により、同社は事業継続が困難な状況に陥りました。
医療機関C病院のケース
看護師が患者の診療記録を不正にコピーし、保険金詐欺グループに情報提供。医師法違反での刑事告発に加え、民事訴訟で数千万円の賠償金支払いを命じられました。
個人が今すぐできる内部脅威対策
企業だけでなく、個人レベルでも内部脅威から身を守ることは可能です。以下の対策を実践することをお勧めします:
1. 多層防御の構築
信頼できるアンチウイルスソフト
を導入し、定期的なスキャンとリアルタイム保護を有効にしましょう。最新のマルウェア対策機能により、内部からの不審な通信やファイル操作を検知できます。
2. 通信の暗号化
特に公共Wi-Fiを使用する際は、VPN
の利用が不可欠です。内部関係者が通信を傍受しようとしても、暗号化により情報を保護できます。
3. アクセス記録の監視
個人のクラウドサービスやデバイスにおいても、ログイン履歴や異常なアクセスパターンを定期的にチェックしましょう。
企業レベルでの包括的対策
中小企業においても、以下の対策は必須と言えるでしょう:
権限管理の徹底
- 必要最小限の権限のみを付与する「最小権限の原則」の徹底
- 定期的な権限見直しと不要な権限の削除
- 退職者の権限即座削除プロセスの確立
監視体制の強化
- ログ監視システムの導入と異常検知
- 機密データへのアクセス記録の詳細保存
- 内部通報制度の整備
Webサイトのセキュリティ強化
企業サイトやシステムの脆弱性は内部関係者によって悪用される可能性があります。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施し、内部からの攻撃経路を事前に発見・対処することが重要です。
事件から学ぶべき教訓
今回の大阪府警の事件は、以下の重要な教訓を私たちに与えています:
- 信頼だけでは不十分:どんなに信頼できる組織や人物であっても、技術的・制度的なチェック機能が必要
- 退職者との関係性管理:元従業員との不適切な関係が新たなリスクを生む可能性
- 正当な権限の悪用:正当な業務権限を悪用した内部脅威は発見が困難
- 継続的な監視の重要性:一回限りの対策ではなく、継続的な監視と改善が必要
まとめ:内部脅威と向き合うために
内部脅威は、外部からのサイバー攻撃以上に深刻な被害をもたらす可能性があります。今回の事件のように、信頼できるはずの内部関係者による情報漏洩は、組織の根幹を揺るがす問題となります。
重要なのは、「うちは大丈夫」という考えを捨て、現実的で実践可能な対策を今すぐ始めることです。個人レベルではアンチウイルスソフト
やVPN
の導入から、企業レベルではWebサイト脆弱性診断サービス
や包括的な監視体制の構築まで、段階的にセキュリティを強化していきましょう。
内部脅威対策は決して特別な技術や大きな予算が必要なものではありません。適切な知識と継続的な取り組みがあれば、十分に対応可能です。この事件を他人事と考えず、自分自身や自社のセキュリティを見直すきっかけとして活用してください。

