2025年10月30日夜、大手オフィス用品通販のアスクルを標的としたサイバー攻撃について、「RansomHouse(ランサムハウス)」と名乗るハッカー集団が犯行声明を公開しました。この事件は、現代企業が直面するサイバーセキュリティの深刻さを改めて浮き彫りにしています。
RansomHouseによる大規模データ窃取の実態
今回の攻撃で特に注目すべきは、犯行集団が窃取したと主張するデータの規模です。1.1テラバイトという膨大な量のデータには、アスクルと顧客とのやり取りの一部が含まれているとされ、その一部が既にインターネット上で公開されています。
フォレンジック調査の観点から見ると、このような大容量データの窃取は、攻撃者が長期間にわたってシステム内に潜伏していた可能性を示唆しています。通常、1テラバイトを超えるデータの外部送信には相当な時間を要するため、初期侵入から実際の攻撃実行まで、数ヶ月から数年の準備期間があった可能性があります。
RansomHouseの手口と特徴
RansomHouseは2021年末頃から活動が確認されている比較的新しいランサムウェア集団ですが、その手法は非常に巧妙です。過去には米国の半導体大手企業や他の日本企業も攻撃対象としており、特に以下の特徴があります:
- 二重恐喝手法の採用:データを暗号化するだけでなく、事前に窃取したデータの公開も脅しに使用
- 標的型攻撃:無差別ではなく、特定の大企業を狙った計画的な攻撃
- 長期潜伏:システム内に長期間潜伏し、機密データを収集
アスクル攻撃による深刻な社会的影響
今回の攻撃で最も深刻なのは、医療現場への影響です。アスクルは医療用品の供給で大きなシェアを持っており、一部のクリニックでは必要な備品の8割を同社から調達していました。
現在、以下のような状況が各地で報告されています:
- 院内備蓄の枯渇による診療への支障
- 代替調達先での価格上昇
- 他のオフィス通販業者への注文殺到
- 医療従事者の業務負担増加
これは単なる企業の被害を超え、社会インフラへの攻撃と言える深刻さです。
企業が今すぐ実装すべきランサムウェア対策
今回のような大規模攻撃を防ぐため、企業は多層防御の考え方に基づいた包括的な対策が必要です。
1. エンドポイント保護の強化
全てのPC・サーバーにアンチウイルスソフト
を導入することは基本中の基本です。特に、従来のシグネチャベースの検知だけでなく、AI技術を活用した振る舞い検知機能を持つソリューションが効果的です。
2. ネットワークセキュリティの見直し
VPN経由での不正アクセスを防ぐため、VPN
の利用と併せて、ゼロトラスト原則に基づいたアクセス制御の導入が重要です。また、定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
により、システムの脆弱性を早期に発見・修正することが求められます。
3. バックアップとレスポンス計画
攻撃を受けた際の迅速な復旧のため、以下の要素が不可欠です:
- 3-2-1ルール:3つのコピー、2つの異なるメディア、1つのオフサイト保管
- 定期的な復旧テスト:バックアップからの実際の復旧手順の検証
- インシデントレスポンス計画:攻撃を受けた際の対応手順の明文化
個人利用者が注意すべきポイント
今回のような企業への攻撃は、個人情報の流出リスクも伴います。個人利用者として以下の対策を推奨します:
パスワード管理の徹底
- アスクルを含む全てのサービスで異なるパスワードを使用
- 二要素認証の有効化
- パスワードマネージャーの活用
個人端末のセキュリティ強化
自宅のPC・スマートフォンにもアンチウイルスソフト
を導入し、常に最新の状態を維持することが重要です。また、怪しいメールやWebサイトへのアクセスを避け、VPN
を利用してオンライン活動を保護することも有効です。
今後のサイバー脅威への備え
RansomHouseのような攻撃集団は、技術の進歩と共にその手法も巧妙化しています。企業・個人を問わず、サイバーセキュリティは「一度設定すれば終わり」ではなく、継続的な見直しと改善が必要な分野です。
特に中小企業では、限られた予算の中でも効果的な対策を講じることが重要です。まずは基本的なアンチウイルスソフト
の導入から始め、段階的にセキュリティレベルを向上させていくアプローチが現実的です。
また、定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
により、システムの脆弱性を客観的に評価し、優先順位を付けて対策を進めることも効果的です。

