2025年10月22日、京都の東山中学・高等学校が衝撃的な発表を行いました。同校の情報システムがランサムウェア攻撃を受け、個人情報漏えいの恐れがあるというものです。
フォレンジックアナリストとして数多くの教育機関のインシデント対応に携わってきた経験から言えば、今回のような事案は決して他人事ではありません。教育現場のデジタル化が進む中で、学校がサイバー犯罪者の格好の標的となっているのが現実です。
事件の詳細と初動対応
今回の攻撃は2025年10月20日に発生し、同校の情報システムに対してランサムウェアによるサイバー攻撃が仕掛けられました。攻撃の影響により、同校が保有する情報への不正アクセスが行われた可能性があり、生徒や保護者、教職員の個人情報が漏えいする恐れがあると発表されています。
同校の対応は迅速でした。攻撃を確認した直後にネットワークを遮断し、京都府警察サイバー対策本部への通報を実施。これは正しい初動対応と言えるでしょう。ランサムウェア攻撃を受けた際の「黄金の72時間」を有効活用するための第一歩です。
教育機関が狙われる理由
私がこれまでに対応した事例を振り返ると、教育機関がサイバー攻撃の標的となる理由は明確です:
- 大量の個人情報保有:生徒・保護者・教職員の氏名、住所、電話番号などの機微情報
- セキュリティ投資の限界:予算制約により最新のセキュリティ対策が後回しになりがち
- IT人材不足:専門的なセキュリティ知識を持つ職員が少ない
- 複雑なネットワーク環境:教職員用、生徒用、来客用など多様な接続環境
実際、昨年対応したある私立高校では、教職員がフィッシングメールに添付されたWordファイルを開いてしまい、そこからEmotetに感染。最終的にランサムウェアのBazarCallに進化し、全校のサーバーが暗号化される事態となりました。
ランサムウェア攻撃の典型的な流れ
今回の東山中学の事例では攻撃手法の詳細は明らかにされていませんが、教育機関を標的としたランサムウェア攻撃には以下のようなパターンが見られます:
1. 初期侵入段階
- フィッシングメールによるマルウェア感染
- 脆弱性のあるVPN機器への攻撃
- RDP(リモートデスクトップ)への総当たり攻撃
- USB経由でのマルウェア持ち込み
2. 権限昇格・横展開
- 管理者権限の奪取
- 校内ネットワークへの侵入拡大
- データの収集・窃取
3. 攻撃実行
- 重要データの暗号化
- バックアップシステムの無力化
- 身代金要求メッセージの表示
被害を最小化するための対策
教育機関がランサムウェア攻撃から身を守るためには、段階的なアプローチが必要です。
個人レベルでできる対策
教職員や生徒一人ひとりができる基本的な対策として、まずアンチウイルスソフト
の導入が挙げられます。Windows標準のDefenderだけでは限界があり、特にゼロデイ攻撃や巧妙なフィッシングメールには対応しきれません。
また、リモートワークや在宅学習が増える中で、VPN
の利用も重要になってきています。公衆Wi-Fiを使用する際のセキュリティリスクを軽減し、通信内容の暗号化により情報漏えいを防げます。
組織レベルでの対策
組織全体のセキュリティ向上には、定期的な脆弱性診断が欠かせません。特に学校のWebサイトや学習管理システムには、Webサイト脆弱性診断サービス
を活用することで、攻撃者に悪用される前に脆弱性を発見・修正できます。
インシデント発生時の適切な対応
もしランサムウェア攻撃を受けてしまった場合、東山中学のような迅速な対応が被害拡大を防ぐ鍵となります:
- 即座のネットワーク遮断:感染拡大を防ぐ
- 証拠保全:フォレンジック調査のためのデータ確保
- 当局への通報:警察サイバー対策本部への連絡
- 専門家への相談:セキュリティベンダーやCSIRTとの連携
- 影響範囲の調査:漏えいした可能性のある情報の特定
今後の展望と教訓
今回の東山中学・高等学校の事例は、教育機関のサイバーセキュリティ対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。デジタル教育の推進と並行して、セキュリティ投資も同等に重視される必要があります。
特に重要なのは、技術的対策だけでなく、教職員や生徒への継続的なセキュリティ教育です。人的要因によるセキュリティインシデントが全体の約9割を占める現状を考えると、この点は極めて重要と言えるでしょう。
また、インシデント対応計画の策定と定期的な訓練も欠かせません。今回の東山中学のように迅速な初動対応ができれば、被害を最小限に抑えることが可能になります。

