2025年10月31日、教育教材販売会社のがんばる舎が自社WEBサイトへの不正アクセスを公表しました。10月8日に発生した攻撃により、保護者や子供の個人情報が漏えいした可能性があるとして、現在も調査が続いています。
現役フォレンジックアナリストとして数多くの不正アクセス事件を調査してきた立場から、今回の事件の詳細と、なぜ教育関連サイトが狙われやすいのか、そして個人や中小企業が実施すべき対策について詳しく解説します。
がんばる舎不正アクセス事件の概要
被害の詳細
今回の事件で漏えいした可能性がある情報は以下の通りです:
- 保護者の氏名
- お子様の氏名
- 生年月日
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- ご通学小学校名
幸い、クレジットカード情報は今回の攻撃対象に含まれていませんでした。これは不幸中の幸いと言えるでしょう。
企業の対応
がんばる舎は以下の対応を実施しています:
- WEBサイトの一時閉鎖
- クレジットカード決済機能の停止
- 原因調査の実施
- セキュリティ対策の強化
- 影響を受けた顧客への個別連絡
注目すべきは、攻撃発生から公表まで約3週間を要している点です。同社は「不確定情報の公開は混乱を招くため、調査結果を待ち、被害最小化の準備を整えた上で告知した」と説明していますが、この判断については賛否両論あるところでしょう。
なぜ教育関連サイトが狙われるのか
フォレンジック調査の現場では、教育関連企業への攻撃が近年増加傾向にあります。その理由を分析してみましょう。
価値の高い個人情報
教育関連サイトには以下のような価値の高い情報が集中しています:
- 子供の情報:氏名、生年月日、学校名など将来的にも悪用可能
- 保護者の情報:経済力のある世帯の詳細な個人情報
- 家族構成:標的型攻撃に利用可能な詳細情報
セキュリティ投資の不足
実際の調査経験から言えることは、教育関連の中小企業では以下の傾向が見られます:
- ITセキュリティへの投資が後回しになりがち
- 専門的なセキュリティ人材の不足
- 古いシステムの長期利用
- セキュリティ意識の個人差が大きい
個人ができる対策
情報漏えい後の対応
もし今回のような事件で個人情報が漏えいした場合、以下の対策を実施してください:
- パスワードの変更:同じパスワードを使い回している他のサービスのパスワードも即座に変更
- 不審なメールの警戒:漏えいした情報を使った標的型攻撃メールに注意
- クレジットカードの利用明細確認:定期的な明細チェックで不正利用を早期発見
- アンチウイルスソフト
の導入:フィッシングメールやマルウェアからの保護を強化
日常的なセキュリティ対策
個人でできる基本的なセキュリティ対策:
- 多要素認証の設定:重要なアカウントには必ず設定
- 定期的なパスワード更新:パスワード管理ツールの活用
- VPN
の利用:公共Wi-Fi利用時の通信暗号化 - ソフトウェアの更新:OS、ブラウザ、セキュリティソフトの最新化
中小企業が実施すべき対策
基本的なセキュリティ対策
今回のような事件を防ぐため、中小企業が最低限実施すべき対策を紹介します:
技術的対策
- WEBサイトの脆弱性診断:定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施 - WAF(Web Application Firewall)の導入:WEBアプリケーションへの攻撃を防御
- アクセスログの監視:不正アクセスの早期発見
- データベースの暗号化:情報漏えい時の被害軽減
運用面での対策
- アクセス権限の管理:最小権限の原則に基づく権限設定
- 従業員教育:定期的なセキュリティ研修の実施
- インシデント対応計画:攻撃を受けた際の対応手順の策定
- バックアップの実施:定期的なデータバックアップとリストアテスト
コストを抑えた対策
予算に制約がある中小企業でも実施可能な対策:
- 無料のセキュリティツール活用:Google Search Console等での脆弱性チェック
- クラウドサービスの活用:自社でのサーバー運用からクラウドサービスへの移行
- セキュリティ専門会社との連携:月額数万円からの監視サービス利用
今後の展望と課題
今回のがんばる舎の事件は、教育関連企業のサイバーセキュリティ対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。特に以下の点が今後の課題となるでしょう:
業界全体での対策強化
- 情報共有の促進:同業他社間での脅威情報の共有
- セキュリティ基準の策定:教育関連サービスに特化したセキュリティガイドライン
- 人材育成:ITセキュリティ専門人材の確保と育成
規制・法制度の整備
- 報告義務の明確化:インシデント発生時の報告タイミングと内容
- 罰則の強化:個人情報保護法違反への厳格な対応
- 第三者認証の普及:セキュリティ対策の客観的評価制度
まとめ:継続的なセキュリティ対策の重要性
がんばる舎の不正アクセス事件は、どんな企業でも標的になり得ることを示しています。重要なのは、「自分には関係ない」と考えるのではなく、今すぐできる対策から始めることです。
個人の皆様にはアンチウイルスソフト
やVPN
の導入を、企業の皆様にはWebサイト脆弱性診断サービス
の実施を強くお勧めします。セキュリティは一度対策すれば終わりではなく、継続的な取り組みが必要です。
今回の事件を教訓に、より安全なデジタル社会の構築に向けて、個人・企業それぞれが責任を持って対策に取り組んでいきましょう。

