静止軌道衛星通信の盗聴が現実に!暗号化の甘さが露呈
2025年11月、米カリフォルニア大学サンディエゴ校と米メリーランド大学の研究チームが発表した論文が、衛星通信のセキュリティに関する衝撃的な事実を明らかにしました。なんと、わずか9万円程度の市販機材で静止軌道衛星の通信を傍受でき、その半数が暗号化されていない状態だったのです。
私がフォレンジックアナリストとして過去に調査した事案でも、通信の暗号化不備が原因で企業秘密や個人情報が流出するケースは後を絶ちません。今回の研究結果は、その問題が宇宙空間でも起きていることを実証したものです。
研究で明らかになった深刻な実態
研究チームは大学の屋上に設置した約600ドル(約9万円)の機材を使用し、39基の衛星から411のトランスポンダーを観測しました。その結果、驚くべき事実が判明したのです。
観測されたトランスポンダーの50%が暗号化されていませんでした。
これは、機密情報が宇宙空間を平文で飛び交っていることを意味します。実際のフォレンジック調査でも、暗号化されていない通信から重要な情報が漏洩するケースを数多く見てきましたが、衛星通信レベルでこの問題が発生していることは深刻です。
露出していた機密情報の内容
研究で傍受された情報の中には、以下のような機密性の高いデータが含まれていました:
携帯電話通信関連
- 通話内容とSMS
- エンドユーザーのインターネット通信
- 端末識別番号(IMSI)
- 携帯通信の暗号化キー
軍事・治安関連
- 船舶からのVoIP通信
- 沿岸監視システムの追跡データ
- 警察の活動情報
インフラ・企業関連
- 電力網の修理作業情報
- 送電網監視システムのデータ
- 企業のログイン認証情報
- ATMネットワーク情報
- 機内Wi-Fi利用者のインターネットトラフィック
これらの情報が暗号化されずに宇宙空間を通過していることは、国家安全保障や企業秘密保護の観点から極めて深刻な問題です。
暗号化されない理由と課題
なぜこれほど重要な情報が暗号化されていないのでしょうか。研究では以下の理由が挙げられています:
技術的制約
- 暗号化による帯域幅のオーバーヘッド
- 遠隔地受信機での復号ハードウェアの電力予算超過
- 暗号化によるトラブルシューティングの困難さ
経済的要因
- 衛星端末ベンダーが暗号化機能に追加ライセンス料を要求
- 暗号化実装のコスト負担
しかし、これらの理由があっても、機密情報を保護することは最優先事項であるべきです。実際の企業調査でも、コスト削減を理由にセキュリティ対策を怠った結果、より大きな損害を被るケースを多く見てきました。
個人・企業が取るべき対策
今回の研究結果を受けて、個人や企業はどのような対策を講じるべきでしょうか?
個人レベルでの対策
まず、インターネット通信を保護するためにVPN
の導入を強く推奨します。特に公共のWi-Fiや衛星インターネットを利用する際は、通信内容が第三者に傍受される可能性があります。
また、デバイス自体のセキュリティ強化も重要です。アンチウイルスソフト
を導入することで、マルウェアや不正アクセスからデータを保護できます。
企業レベルでの対策
企業においては、通信経路全体のセキュリティ見直しが必要です。特に:
- 衛星通信を利用している場合の暗号化設定確認
- 重要データの通信経路の棚卸し
- エンドツーエンド暗号化の実装
- 定期的なセキュリティ監査の実施
さらに、Webサイトやシステムの脆弱性についても定期的な診断が重要です。Webサイト脆弱性診断サービス
を利用することで、外部からの攻撃リスクを事前に把握し、対策を講じることができます。
研究後の対応状況
研究チームは発見した脆弱性について該当組織に連絡を取り、T-Mobile、ウォルマート、KPUなど一部の組織は既に対策を実施しています。しかし、これは氷山の一角に過ぎません。
私のフォレンジック調査経験からも、脆弱性が発見されてから実際に対策が完了するまでには相当な時間がかかることが多々あります。その間、機密情報は危険にさらされ続けることになります。
まとめ:今すぐ始められるセキュリティ対策
今回の研究結果は、私たちが日常的に利用している通信インフラに深刻なセキュリティリスクが存在することを示しています。しかし、適切な対策を講じることで、これらのリスクを大幅に軽減することが可能です。
個人の方はVPN
とアンチウイルスソフト
の導入から始めてください。企業の方は通信セキュリティの全面的な見直しと、Webサイト脆弱性診断サービス
による定期的な脆弱性診断を実施することをお勧めします。
サイバーセキュリティは「他人事」ではありません。今日から始められる対策を実践し、大切な情報を守りましょう。

