サイバーセキュリティ業界に衝撃が走りました。2025年11月4日、大手セキュリティベンダーであるSonicWallが、9月に発生したクラウド環境への不正アクセスが国家支援型ハッカーによるものだったことを正式に発表したのです。
今回の攻撃は、単なる金銭目的のサイバー犯罪とは一線を画す、極めて高度で組織的な脅威であることが明らかになりました。フォレンジックアナリストとしての長年の経験から言えば、このような国家レベルの脅威は個人や中小企業にとっても決して他人事ではありません。
攻撃の詳細と検知の経緯
今回の攻撃は9月上旬、SonicWallのクラウド環境内で発生した「特定のファイアウォール設定バックアップに対する不審なダウンロード」として最初に検知されました。これ自体、優秀な監視システムがあってこその早期発見でした。
外部調査会社Mandiantの最終報告によると、国家支援型の脅威アクターがAPIコールを巧妙に利用し、クラウド環境に保存されていたバックアップファイルへ不正にアクセスしていたことが確認されています。
幸いなことに、今回の侵害はクラウド環境内に限定され、SonicWallの製品やファームウェア、社内システム、顧客ネットワークには影響が及んでいません。また、現在世界各地で猛威を振るっているAkiraランサムウェアによるエッジ機器攻撃とは無関係であることも確認されています。
ファイアウォール設定バックアップが狙われる理由
なぜ攻撃者はファイアウォール設定バックアップを狙ったのでしょうか?これは非常に重要な問題です。
ファイアウォール設定バックアップには、通常以下のような機密情報が含まれています:
- VPNの事前共有鍵
- 管理者認証情報
- 証明書・鍵素材
- インターフェース設定
- アクセス制御ルールの定義
これらの情報を入手した攻撃者は、企業のネットワーク構成を詳細に把握し、さらなる攻撃の足がかりとすることができます。実際に私が調査したケースでも、設定ファイルの情報を基に攻撃者が企業内部への侵入を成功させた事例が複数あります。
企業が今すぐ取るべき対策
SonicWallは迅速な対応を見せ、Mandiant推奨の是正策をすべて実施済みですが、この攻撃から学ぶべき教訓は多くあります。
特に中小企業の経営者やIT担当者の皆さんには、以下の対策を強く推奨します:
1. 管理者パスワードと認証情報の見直し
管理者パスワードの変更、不要アカウントの削除、そして多要素認証の徹底的な実装が急務です。特に、ファイアウォールやネットワーク機器の管理インターフェースへのアクセスには、必ず多要素認証を設定してください。
2. VPN接続の暗号化鍵の更新
サイト間VPNの鍵や証明書の再発行、APIトークンやSNMPコミュニティの入れ替えを計画的に実施しましょう。VPN
を利用することで、個人レベルでもVPN通信の安全性を大幅に向上させることができます。
3. バックアップファイルの暗号化
設定バックアップの暗号化と保存期間の最小化を実装してください。暗号化されていないバックアップファイルは、攻撃者にとって宝の山です。
個人ユーザーが学ぶべき教訓
「うちは大企業じゃないから関係ない」と思われるかもしれませんが、それは大きな間違いです。国家支援型ハッカーは、大企業への攻撃の足がかりとして、まず関連する中小企業や個人を標的にすることがよくあります。
実際に私が担当したフォレンジック調査では、大手製造業への攻撃の入り口が、下請け企業の脆弱なVPN接続だったケースがありました。攻撃者は数ヶ月かけて下請け企業のネットワークに潜伏し、最終的に本命の大企業への侵入を果たしていました。
個人ユーザーの方も、アンチウイルスソフト
の導入と定期的な更新、そして信頼できるVPN
の使用により、自身のデジタル資産を守ることが可能です。
継続的なセキュリティ監視の重要性
今回のSonicWallの事例で特筆すべきは、攻撃の早期発見でした。9月上旬に不審なダウンロードが検知されたからこそ、被害の拡大を防ぐことができたのです。
企業においては、API監査ログの精査と異常接続の監視を24時間体制で実施することが重要です。特に、普段とは異なるパターンでのファイルアクセスや、通常業務時間外のシステムアクセスには細心の注意を払う必要があります。
まとめ:プロアクティブなセキュリティ対策の必要性
今回のSonicWallへの攻撃は、国家支援型の脅威が現実のものであることを改めて示しました。しかし、適切な対策を講じることで、このような高度な攻撃からも組織を守ることは可能です。
重要なのは、攻撃を受けてから対策を考えるのではなく、常に先手を打つプロアクティブなセキュリティアプローチを採用することです。SonicWallのように、「Secure by Design」の考え方に基づいたシステム構築と運用を心がけましょう。
特にWebサイト脆弱性診断サービス
の定期的な実施により、自社のWebシステムの脆弱性を事前に把握し、攻撃者に先手を打つことができます。
サイバーセキュリティは一朝一夕に完璧になるものではありません。しかし、今回のような事例から学び、継続的に対策を改善していくことで、確実にリスクを軽減することができるのです。

