2025年11月4日、公益財団法人 日本適合性認定協会(JAB)がメール乗っ取り被害を公表したニュースが、セキュリティ業界に大きな衝撃を与えています。信頼性の高い認定機関でさえも標的となる現代のサイバー攻撃の恐ろしさを、改めて実感させる事件となりました。
今回は現役フォレンジックアナリストの視点から、この事件の詳細分析と、個人・企業が今すぐ実施すべき対策について徹底解説します。
事件の全容:公益財団法人でも狙われる時代
攻撃の概要
2025年9月22日12時頃、日本適合性認定協会のメールシステム一部に不正アクセスが発生しました。攻撃者は職員のメールアカウントを乗っ取り、その職員になりすまして外部に迷惑メールを送信していました。
送信された迷惑メールには以下の特徴がありました:
- 不審なリンクが含まれている
- 資格情報(ID・パスワード)の入力を誘導する内容
- 正規職員のメールアドレスから送信(なりすまし)
被害の規模と現状
幸いなことに、現時点では以下の情報漏えいは確認されていません:
- 氏名・住所・電話番号などの個人情報
- 口座情報
- その他の機密情報
ただし、フォレンジック調査の経験から言えることは、「現時点で確認されていない」ということと「実際に漏えいしていない」ということは別問題だということです。
なぜメール乗っ取りが起こるのか?攻撃手法の分析
典型的な攻撃経路
メール乗っ取り事件の多くは、以下のような経路で発生します:
- フィッシング攻撃:偽のログイン画面でID・パスワードを窃取
- パスワード使い回し:他のサービスから漏えいした認証情報を利用
- ブルートフォース攻撃:総当たりで弱いパスワードを突破
- マルウェア感染:キーロガーなどで認証情報を盗取
実際のフォレンジック事例
私が担当した中小企業の事例では、経理担当者のメールアカウントが乗っ取られ、取引先に偽の請求書が送信されるケースがありました。この時の調査で判明したのは:
- 職員が業務用パスワードを私的なSNSでも使い回していた
- SNSから漏えいした認証情報が闇市場で売買されていた
- 攻撃者は約3ヶ月間、メールを監視していた
結果的に、取引先から約500万円を詐取される被害となりました。JABの事件も、同様の手口である可能性が高いと考えられます。
メール乗っ取り被害を受けた際の対応策
緊急時の初動対応
もしあなたが同様の迷惑メールを受信した場合、以下の対応を厳守してください:
1. 絶対にクリックしない
- リンクは開かない
- 添付ファイルは開かない
- 「支払い」関連で心当たりがないものは即削除
2. 公式経路での確認
- メール本文のリンクは使わない
- ブックマークや検索から公式サイトにアクセス
- 電話で直接確認
3. 認証情報の見直し
- 同じID・パスワードを使い回している場合は即座に変更
- 強固なパスワードに変更
- 可能な限り多要素認証(MFA)を有効化
誤って操作してしまった場合の対処法
万が一、不審なリンクをクリックしたり、情報を入力してしまった場合:
- 端末のアンチウイルスソフト
実行:マルウェア感染の確認 - 全パスワードの変更:関連するすべてのアカウント
- MFA有効化:二段階認証の設定
- 管理者への報告:組織のセキュリティ担当者に連絡
企業が実施すべき予防策
技術的対策
- メールセキュリティの強化:スパムフィルターやサンドボックス機能
- 多要素認証の導入:全職員のメールアカウントに適用
- 定期的な脆弱性診断:Webサイト脆弱性診断サービス
による定期チェック - VPN
の活用:リモートワーク時のセキュリティ確保
運用面での対策
- セキュリティ教育:定期的なフィッシング訓練
- パスワードポリシー:複雑性と定期変更の義務化
- アクセス監視:異常なログイン試行の検知
- インシデント対応計画:被害発生時の初動手順
個人ユーザーができる今すぐの対策
メールアカウントの点検項目
以下の設定を今すぐ確認してください:
- メール転送設定:身に覚えのない転送先がないか
- 自動仕分けルール:不審な振り分け設定がないか
- 署名の改変:勝手に変更されていないか
- ログイン履歴:不審なアクセス記録がないか
パスワード管理の見直し
特に以下のアカウントは厳重に管理してください:
- メールアカウント
- 銀行・証券会社
- クレジットカード会社
- ECサイト
- SNS
まとめ:信頼できる組織でも狙われる時代の対策
今回の日本適合性認定協会の事件は、どんなに信頼できる組織でもサイバー攻撃の標的となり得ることを改めて示しました。重要なのは、被害を完全に防ぐことが難しい現実を受け入れた上で、適切な予防策と迅速な対応策を準備することです。
特に個人ユーザーの皆さんは、今回のような事件をきっかけに、自身のセキュリティ対策を見直してみてください。アンチウイルスソフト
の導入やVPN
の活用、そして何より強固なパスワード管理が、あなたを守る最初の防壁となります。
企業の情報システム担当者の方は、この機会にWebサイト脆弱性診断サービス
を検討し、システム全体の脆弱性を把握することをお勧めします。攻撃者は常に新しい手法を開発しており、守る側も常に最新の対策を講じる必要があるのです。

