長崎県警が示すサイバーセキュリティの重要性
長崎県警本部で実施されたサイバー攻撃対応トレーニングに、長崎大学、県立大学、長崎総合科学大学の学生・大学院生28人が参加しました。この取り組みは、インターネット上の有害情報排除に取り組む学生ボランティアを対象とした実践型トレーニングで、サイバー犯罪対策課員とテクニカルアドバイザーが指導を行いました。
現役のフォレンジックアナリストとして、このような官民連携の取り組みは非常に意義深いと感じています。実際の現場では、サイバー攻撃の手法が日々巧妙化しており、被害を受けてからの対応では手遅れになるケースが後を絶ちません。
サイバー攻撃の現実的な脅威と被害事例
私が担当したフォレンジック調査の中で、特に印象に残っているのは地方の中小企業が受けたランサムウェア攻撃です。従業員数50名程度のその会社では、1台のパソコンが感染したことから、わずか数時間で社内の全システムが暗号化されてしまいました。
個人が遭遇しやすいサイバー攻撃
個人の方が特に注意すべきなのは、以下のような攻撃手法です:
- フィッシングメール攻撃:銀行やクレジットカード会社を装ったメールで個人情報を盗取
- 偽装サイト攻撃:正規サイトを模倣した偽サイトでログイン情報を盗取
- マルウェア感染:無料ソフトウェアのダウンロード時に潜り込む悪意のあるプログラム
実際に調査した事例では、個人のオンラインバンキング情報が盗まれ、数百万円の被害を受けたケースもありました。この方の場合、アンチウイルスソフト
を使用していれば防げた可能性が高い攻撃でした。
企業が直面するサイバーセキュリティの課題
企業においては、さらに複雑で深刻な脅威が存在します。特に中小企業では、セキュリティ担当者が不在であることが多く、基本的な対策さえ十分でないケースが目立ちます。
実際の企業被害事例
ある製造業の企業では、Webサイトの脆弱性を突いた攻撃により、顧客データベースが流出しました。調査の結果、以下の問題が発見されました:
- 古いバージョンのCMSを使用していた
- 定期的なセキュリティ診断を実施していなかった
- 従業員のセキュリティ意識が低かった
この企業は結果的に、損害賠償や信用失墜により数千万円の損失を被りました。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施していれば、事前に脆弱性を発見し、対策を講じることができたはずです。
リモートワークが拡大する現代の新たな脅威
コロナ禍以降、リモートワークが一般的になったことで、新たなセキュリティリスクが生まれています。自宅からの業務では、企業のセキュリティ管理が及ばない環境での作業となり、攻撃者にとっては格好の標的となります。
VPN の重要性
特に公共のWi-Fiを使用した業務は非常に危険です。実際に調査した事例では、カフェの無料Wi-Fiを使用していた営業担当者のパソコンが、中間者攻撃により機密情報を盗まれていました。このような被害を防ぐためには、信頼性の高いVPN
の使用が不可欠です。
今すぐ実践すべきサイバーセキュリティ対策
長崎県警のトレーニングのような専門的な教育を受けることは理想的ですが、一般の方や企業でも今すぐ実践できる対策があります。
個人向けの基本対策
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入:リアルタイム保護機能付きのものを選択 - 定期的なソフトウェアアップデート:OSや各種アプリケーションを最新状態に保つ
- 強固なパスワード管理:パスワード管理ツールの活用を推奨
- 怪しいメールやリンクの回避:送信者を慎重に確認する習慣づけ
企業向けの対策
- 従業員のセキュリティ教育:定期的な研修やフィッシング訓練の実施
- Webサイト脆弱性診断サービス
の定期実施:四半期に一度程度の頻度で実施 - インシデント対応計画の策定:攻撃を受けた際の初動対応マニュアル作成
- バックアップ体制の整備:オフラインバックアップの確実な実施
サイバーセキュリティは投資であり、コストではない
多くの企業や個人が「セキュリティ対策はコストがかかる」と考えがちですが、実際には投資と捉えるべきです。適切な対策を講じることで、将来的な大きな損失を防ぐことができます。
フォレンジック調査を依頼される企業の多くは、「もっと早く対策をしておけば良かった」と後悔されます。長崎県警のような取り組みが全国に広がり、サイバーセキュリティ意識が向上することを強く願っています。

