サイバーセキュリティの現場で日々活動している私からすると、2025年の特殊詐欺の進化ぶりには本当に驚かされます。トビラシステムズが発表した最新レポートを見ると、従来の高齢者狙いから若年層へのターゲット変更、そして手口の巧妙化が一気に進んでいることが分かります。
今回は、フォレンジック調査の現場で実際に扱った事例も交えながら、個人や中小企業が身を守るための具体的な対策について詳しく解説していきます。
現在進行形で起きている特殊詐欺の実態
私が最近担当したフォレンジック調査案件で、30代のIT企業経営者が警察官を装った詐欺に遭った事例がありました。この方は「自分はITに詳しいから大丈夫」と思っていたそうですが、巧妙な手口に引っかかってしまったのです。
被害者の年齢層が大幅に変化
統計を見ると驚くべき変化が起きています:
– 2023年まで:オレオレ詐欺被害の9割が高齢者(65歳以上)
– 2025年現在:65歳未満の被害者が50%を超える
– 特に20〜30代の若年層被害が急増
この背景には、詐欺師側の戦略転換があります。彼らは「若年層の方がスマートフォンに慣れ親しんでいる」「オンラインバンキングをよく使う」という点に注目し、ターゲットを変更してきているのです。
国際電話番号の悪用が深刻化
現在、新規登録される迷惑電話番号の57.7%が国際電話番号となっています。特に多いのは:
1. アメリカ・カナダ(+1)
2. 中国
3. カンボジア
4. オーストリア
5. 国際プレミアムレート(+979)
私が調査した案件では、+1(アメリカ)の番号から「総務省の者です」と名乗る詐欺電話がかかってきたケースがありました。国際電話であることを隠すため、発信者番号を偽装する「番号スプーフィング」という技術も使われています。
フィッシング詐欺の巧妙化が止まらない
2025年5月のデータを見ると、フィッシング詐欺SMSの内訳は以下の通りです:
– 金融・決済サービス偽装:47.5%(3ヶ月連続増加)
– 宅配事業者偽装:45.2%
– その他(電力会社等):7.2%
特に注目すべきは、クレジットカード会社や証券会社を装ったSMSの急増です。実際に私が関わった調査では、「Mastercard」を装ったフィッシングメールから偽サイトに誘導され、カード情報を盗まれた事例がありました。
実際の被害事例から学ぶ
事例1:中小企業の経理担当者が狙われたケース
従業員50名の製造業で、経理担当者が「JCB」を装ったSMSを受信。「カードが不正利用されています」という内容で偽サイトに誘導され、カード情報とネットバンキングのIDを入力してしまいました。その後、法人口座から500万円が不正送金される被害に遭いました。
事例2:個人事業主がSBI証券偽装詐欺に遭遇
フリーランスのWebデザイナーが「SBI証券」を装ったSMSを受信。「口座に不正アクセスがありました」という内容で、慌てて偽サイトでログイン情報を入力。その後、証券口座の資金200万円が勝手に売却され、別口座に送金されてしまいました。
新しい詐欺手口の3つの特徴
現在の詐欺は以下の3つの特徴で進化しています:
1. 携帯電話がメインターゲットに
警察官等を装う詐欺の約7割が携帯電話を標的としています。固定電話中心だった従来とは大きく異なり、日常的にスマートフォンを使う若年層が狙われやすくなっています。
2. “権威型”手口への移行
「息子を装う」従来のオレオレ詐欺から、「警察官」「検察官」「銀行協会職員」など権威ある立場を装う手口に変化。「逮捕する」「捜査に協力しないと」といった恐怖を煽る言葉で冷静な判断力を奪います。
3. 最新技術の悪用
– メッセージアプリでの偽警察手帳・逮捕状画像送信
– ビデオ通話での制服着用者登場
– 生成AIによる映像加工
– オンラインバンキングでの振り込み指示
私が調査した案件では、詐欺師がZoomで「事情聴取」と称した偽の面接を行い、画面越しに警察官の制服を着た人物が登場したケースがありました。被害者は「本物の警察だ」と信じ込んでしまい、200万円を騙し取られました。
個人・中小企業ができる具体的対策
フォレンジック調査の現場で見てきた被害を防ぐため、以下の対策を強くお勧めします:
基本的な心構え
1. 電話で「お金」「キャッシュカード」の話が出たら即座に切る
2. 警察がメッセージアプリや画像送信をすることは絶対にない
3. 不審に思ったら家族・警察署・警察相談専用電話(#9110)に相談
技術的対策
セキュリティソフトの導入
個人向けのアンチウイルスソフト
を導入することで、フィッシングサイトへのアクセスを事前にブロックできます。私が調査した案件では、セキュリティソフトを入れていた企業は被害を免れているケースが多く見られました。
VPNの活用
特に公衆Wi-Fiを使用する機会が多い方は、VPN
の導入を検討してください。通信内容の盗聴を防ぎ、安全にインターネットを利用できます。
国際電話の着信拒否設定
携帯電話会社の国際電話着信拒否サービスを積極的に活用しましょう。多くの詐欺電話が国際電話番号を使用しているため、大幅にリスクを軽減できます。
企業向け追加対策
– 従業員への定期的なセキュリティ教育実施
– フィッシングメールを模擬したテスト訓練
– 金融取引に関する社内ルールの明文化
– 複数人承認制度の導入
被害に遭ってしまった場合の初動対応
万が一被害に遭った場合は、以下の手順で対応してください:
1. 即座に関連サービスの利用停止
– 銀行口座の利用停止
– クレジットカードの利用停止
– 証券口座のパスワード変更
2. 警察への届出
– 最寄りの警察署で被害届を提出
– 詐欺の経緯を時系列で整理
3. 証拠の保全
– 詐欺メールやSMSのスクリーンショット
– 通話履歴の記録
– 金融機関の取引履歴
私のようなフォレンジック専門家に依頼する場合も、初動の証拠保全が調査の成否を大きく左右します。
まとめ:常に進化する脅威への備え
2025年の特殊詐欺は、従来の常識を覆すスピードで進化しています。「自分は大丈夫」という思い込みが一番危険です。
現役のフォレンジックアナリストとして断言できるのは、技術的な対策と知識の両方が必要だということです。アンチウイルスソフト
やVPN
といったセキュリティツールを適切に使いながら、最新の詐欺手口について常に情報収集を行うことが重要です。
特に中小企業の経営者の方は、従業員への教育と合わせて、技術的な防御策も並行して進めてください。一度被害に遭うと、金銭的損失だけでなく、お客様からの信頼失墜という取り返しのつかない損害につながる可能性があります。
私たちフォレンジック調査員は、被害が発生してから呼ばれることが多いのですが、本来は被害を未然に防ぐことが一番大切です。この記事を読んでくださった皆さんが、適切な対策を取って安全にデジタル社会を楽しんでいただければと思います。