福岡県警と民間企業が協力して立ち上げた「福岡県サイバー攻撃対策協議会」の総会が開催され、深刻化するランサムウェア被害の実態が浮き彫りになりました。アサヒビールやアスクルなど大手企業も被害を受けている今、個人や中小企業にとってもサイバー攻撃対策は待ったなしの状況です。
現役のCSIRTメンバーとして数多くのインシデント対応に携わってきた私が、今回の協議会の取り組みを踏まえながら、実践的な対策法をお伝えします。
過去最多を記録したランサムウェア被害の深刻度
警察庁の発表によると、2025年上半期のランサムウェア被害件数は全国で116件と、これまでの最多記録を更新しました。この数字は氷山の一角に過ぎず、被害を公表していない企業や個人を含めると、実際の被害規模はさらに大きいと考えられます。
福岡県警が電力・鉄道などのインフラ事業者、大学、自治体など63団体との連携を強化しているのは、サイバー攻撃が単独の組織だけでは対処できない規模に拡大しているからです。
実際のフォレンジック事例から見る被害パターン
私がこれまで調査した事例では、以下のような共通パターンが見られています:
ケース1:中小製造業A社
・従業員50名の金属加工会社
・VPN経由で侵入され、設計データや顧客情報を暗号化
・復旧まで3週間、売上機会損失は約2000万円
ケース2:医療機関B院
・地域密着型のクリニック
・電子カルテシステムが暗号化され診療停止
・患者データの復旧に1ヶ月、信用失墜による患者離れが深刻
ランサムウェア攻撃の最新手口と侵入経路
最近のランサムウェア攻撃では、以下の手口が主流となっています:
1. 標的型メール攻撃
実在の取引先を装った巧妙なメールが送られてきます。添付ファイルを開いたり、リンクをクリックしたりすることで、マルウェアが仕込まれます。従来のアンチウイルスソフト
だけでは、これらの最新の脅威を完全に防ぐことは困難です。
2. VPN脆弱性を狙った攻撃
テレワーク普及でVPN利用が増加した結果、設定の甘いVPNが狙われています。信頼できるVPN
を使用することで、この脅威を大幅に軽減できます。
3. サプライチェーン攻撃
直接攻撃が困難な大企業に対して、関連する中小企業を経由して侵入する手口です。取引先からのアクセスを装うため、発見が遅れがちです。
福岡県の官民連携モデルから学ぶ効果的対策
福岡県サイバー攻撃対策協議会の取り組みには、個人や中小企業でも活用できる重要なヒントがあります。
情報共有の重要性
協議会では、最新の脅威情報や攻撃手口を参加組織間で共有しています。個人レベルでも、セキュリティ関連のニュースや警告を定期的にチェックし、家族や同僚と情報を共有することが重要です。
定期的な訓練の実施
共同訓練を通じて、実際の攻撃を想定した対応力を向上させています。個人や小規模企業でも、データのバックアップ復旧テストや、怪しいメールへの対処法を定期的に確認しましょう。
今すぐ実践できるランサムウェア対策
フォレンジック調査の現場で見てきた経験から、以下の対策を強く推奨します:
基本的な防御策
1. 多層防御の構築
最新のアンチウイルスソフト
、ファイアウォール、エンドポイント検知システムを組み合わせた多層防御が効果的です。
2. 定期的なバックアップ
・重要データは毎日バックアップ
・バックアップデータはネットワークから切り離して保管
・月1回は復旧テストを実施
3. ソフトウェアの更新
OS、アプリケーション、セキュリティソフトを常に最新版に保つことで、既知の脆弱性を塞げます。
Webサイトを運営している場合の特別な注意点
企業サイトや個人ブログを運営している場合、Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、攻撃者の侵入経路となる脆弱性を事前に発見・修正できます。
被害に遭った場合の初動対応
万が一ランサムウェア攻撃を受けた場合の対応手順:
1. 即座にネットワーク切断
感染拡大を防ぐため、感染端末をネットワークから即座に切り離します。
2. 証拠保全
画面のスクリーンショットを撮り、攻撃者からのメッセージを保存します。これらはフォレンジック調査で重要な手がかりとなります。
3. 専門機関への相談
警察のサイバー犯罪相談窓口や、JPCERT/CCなどの専門機関に速やかに相談しましょう。
まとめ:個人と企業の協力による防御力強化
福岡県の取り組みが示すように、サイバー攻撃対策は官民一体となった取り組みが不可欠です。しかし、一人ひとりが適切な対策を講じることで、攻撃者にとって「割に合わない」ターゲットになることができます。
特に重要なのは、最新の脅威に対応したアンチウイルスソフト
の導入と、安全なVPN
の活用です。これらの投資は、ランサムウェア被害による莫大な損失を考えれば、決して高い買い物ではありません。
サイバー攻撃は他人事ではありません。今日から始められる対策を一歩ずつ実践し、デジタル時代の資産を守り抜きましょう。

