国立国会図書館で発生した深刻なサプライチェーン攻撃とは
国立国会図書館(NDL)で発生した今回の不正アクセス事件は、現代のサイバー攻撃の中でも特に対策が困難とされる「サプライチェーン攻撃」の典型例です。
2025年11月5日に発覚したこの事件では、委託先のIIJ(インターネットイニシアティブ)の再委託先である株式会社ソリューション・ワンのネットワークが侵害され、その影響でNDLのシステム開発環境に不正アクセスが行われました。
攻撃の流れと影響範囲
今回の攻撃は以下のような段階的な侵害プロセスで進行しました:
- 攻撃者がソリューション・ワンのネットワークに侵入
- 侵害されたネットワーク経由でIIJが管理する開発環境にアクセス
- 開発環境のサーバ構成情報や利用者情報が漏えいした可能性
幸い、NDLの本体サービスや基幹システムには影響が確認されていませんが、開発環境に保存されていた以下の情報が漏えいした可能性があります:
- 開発環境のサーバ構成情報等、システム開発に用いる情報
- 一部の利用者情報および利用情報
サプライチェーン攻撃が急増している理由
フォレンジック調査を担当する現場の立場から言えば、このようなサプライチェーン攻撃は年々増加しています。その理由は明確で、大手企業のセキュリティ対策が強化される一方で、委託先や再委託先のセキュリティレベルにばらつきがあるからです。
実際のフォレンジック事例から見る被害パターン
私が過去に調査した類似事例では、以下のような共通点が見られました:
ケース1:製造業A社の事例
システム開発を委託した中小IT企業のVPNが侵害され、A社の顧客データベースに不正アクセス。約15万件の個人情報が漏えいし、対応費用だけで2億円を超過。
ケース2:教育機関B大学の事例
Webサイト制作を委託した会社のサーバーが侵害され、学生の成績情報や個人情報約8万件が流出。復旧までに3ヶ月を要し、信頼回復に数年かかった。
これらの事例に共通するのは、委託先のセキュリティ対策不備が発端となっていることです。
個人ユーザーが今すぐ実践すべき対策
今回のNDL事件を受けて、個人ユーザーが取るべき具体的な対策をご紹介します。
1. 公式発表の確認と情報収集
NDLや関連機関からの公式発表を定期的にチェックし、不審なメールや連絡が届いた場合は、以下の手順で対応してください:
- 添付ファイルやリンクを絶対にクリックしない
- 公式窓口に直接問い合わせて真偽を確認
- 個人情報を求める連絡には特に注意
2. セキュリティソフトによる保護強化
このような大規模な情報漏えい事件の後は、漏えいした情報を悪用したフィッシング攻撃やマルウェア配布が増加する傾向があります。アンチウイルスソフト
で端末を保護し、リアルタイムでの脅威検知を有効にしておくことが重要です。
3. ネットワーク通信の暗号化
公共Wi-Fiや不安定なネットワーク環境での通信時は、VPN
を使用して通信を暗号化し、中間者攻撃などから身を守りましょう。特に図書館などの公共施設でのインターネット利用時は必須です。
企業・組織が実装すべき緊急対策
委託先管理の強化
今回の事件は、委託先・再委託先のセキュリティ管理の重要性を改めて示しています。企業は以下の点を見直す必要があります:
- 委託先のセキュリティ監査を定期的に実施
- 再委託の承認プロセスを厳格化
- 委託先との情報共有範囲を最小限に制限
- インシデント発生時の報告体制を整備
Webサイトやシステムの脆弱性対策
自社で運営するWebサイトやシステムについても、Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施し、攻撃の入り口となり得る脆弱性を事前に発見・修正することが重要です。
フォレンジック専門家が予測する今後の展開
今回のNDL事件では、外部専門機関と連携したフォレンジック調査が実施されています。過去の類似事例から予測される調査ポイントは以下の通りです:
侵入経路の特定
- ソリューション・ワンのネットワークへの初期侵入方法
- 使用されたマルウェアや攻撃ツールの解析
- 攻撃者の滞留期間と活動範囲
被害範囲の確定
- 漏えいした具体的なデータの種類と件数
- データの不正利用や流通状況
- 他のシステムやネットワークへの横展開の有無
調査完了までには通常3〜6ヶ月程度を要するため、今後も継続的な情報開示が予想されます。
類似攻撃から身を守るためのチェックリスト
サプライチェーン攻撃は予防が困難ですが、被害を最小限に抑えるための対策は可能です。以下のチェックリストを参考に、個人・企業レベルでの対策を強化してください:
個人ユーザー向け
- □ 重要なアカウントで二段階認証を有効化
- □ 定期的なパスワード変更とパスワード管理ツールの使用
- □ アンチウイルスソフト
を最新状態で運用 - □ VPN
でネットワーク通信を保護 - □ 公式発表をこまめにチェック
企業・組織向け
- □ 委託先のセキュリティレベル評価
- □ 定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施 - □ インシデント対応体制の整備
- □ 従業員向けセキュリティ教育の実施
- □ ネットワーク監視体制の強化
まとめ:サプライチェーン攻撃時代の新常識
今回の国立国会図書館での不正アクセス事件は、現代のサイバーセキュリティ環境において、誰もが被害者になり得ることを示しています。特に、信頼できる機関や企業であっても、その委託先や関連企業を経由した攻撃は防ぎきれない場合があります。
重要なのは、完全な防御ではなく「被害を最小限に抑える」「迅速に対応する」という考え方です。個人レベルではアンチウイルスソフト
やVPN
を活用した基本的なセキュリティ対策を、企業レベルではWebサイト脆弱性診断サービス
による定期的な脆弱性チェックを実施し、万が一の事態に備えることが現実的な対策と言えるでしょう。
この事件を教訓に、私たち一人ひとりがサイバーセキュリティに対する意識を高め、適切な対策を講じることで、より安全なデジタル社会の実現に貢献していきましょう。

