「アカウント制限のお知らせ」「緊急:カード利用停止手続きが必要です」。こんなメールが届いて、一瞬ドキッとした経験はありませんか?実は、このような「緊急性」を演出するメールこそが、近年急激に被害が拡大しているフィッシング詐欺の典型的な手口なんです。
福島県では2025年10月末時点で、フィッシング詐欺による被害が39件、約5800万円に達し、前年1年間の被害額をすでに上回っています。この数字は決して他人事ではありません。
フィッシング詐欺の巧妙化する手口とは?
フィッシング詐欺とは、実在する企業やサービスを装った偽のメールを送信し、偽のウェブサイトに誘導してユーザーIDやパスワード、クレジットカード情報などの重要な個人情報を盗み取る犯罪手法です。
福島県警サイバー犯罪対策課の黒須英昭課長によると、「メール内のリンクをクリックすると偽物のサイトに誘導され、ユーザーID・パスワードやクレジットカード情報の入力が求められ、入力すると犯人にその情報が渡る」とのことです。
実際の被害事例から見る深刻さ
私がフォレンジック調査で関わった事例では、地方の小さな会社の経理担当者が銀行を装ったフィッシングメールに騙され、約300万円を不正送金される被害がありました。犯行グループは、その会社の取引銀行を事前に調べ上げ、本物そっくりの偽サイトを用意していました。
被害に遭った経理担当者は「普段使っている銀行からのメールだったので、まさか偽物だとは思わなかった」と話していました。このように、フィッシング詐欺は年々巧妙化しており、見た目だけでは本物と偽物の区別がつかないレベルまで精巧に作られているのが現状です。
フィッシング詐欺を見破る具体的な方法
しかし、どんなに巧妙な偽サイトでも、必ず見破れるポイントがあります。県警の捜査員が指摘する重要な見分け方をご紹介します。
1. URLを必ずチェックする
最も確実な見分け方は、URLの確認です。偽サイトのURLは、本物のサイトとは全く異なるでたらめなものになっています。例えば:
本物:https://www.example-bank.co.jp/
偽物:https://www.examp1e-b4nk.com/
このように、一見すると似ているように見えても、よく見ると文字が置き換えられていたり、ドメイン名が全く違っていたりします。
2. 緊急性を煽る文言に注意
「今すぐ」「アカウント停止」「24時間以内」といった緊急性を煽る文言は、フィッシング詐欺の典型的な特徴です。正規の企業が本当に緊急の連絡をする場合は、通常、電話や郵送など複数の方法で連絡してきます。
3. 個人情報の入力を求める内容
メールで直接、クレジットカード番号や銀行口座の情報、パスワードなどの入力を求める内容は、ほぼ100%詐欺と考えて間違いありません。
効果的な対策方法
1. メールのリンクはクリックしない
怪しいメールが届いた場合は、メール内のリンクは絶対にクリックしないでください。代わりに、ブックマークしている公式サイトや、検索エンジンから公式サイトにアクセスして確認しましょう。
2. 多要素認証を活用する
可能な限り、各種オンラインサービスで多要素認証(2FA)を設定しておくことをお勧めします。万が一パスワードが漏洩しても、追加の認証段階があることで被害を防げます。
3. セキュリティソフトの活用
最新のアンチウイルスソフト
を導入することで、フィッシングサイトへのアクセスをブロックしたり、怪しいメールを自動的に検出したりできます。特に個人や中小企業では、ITセキュリティの専門知識が不足しがちなため、こうしたツールに頼ることが重要です。
企業が取るべき追加対策
社員教育とセキュリティ研修
私が関わった企業のインシデント対応では、フィッシング詐欺の被害を受けた企業のほとんどが、社員向けのセキュリティ研修を十分に行っていませんでした。
定期的な模擬フィッシングメールのテストや、最新の攻撃手法についての情報共有を行うことで、社員のセキュリティ意識を高めることができます。
Webサイトのセキュリティ強化
自社のWebサイトが攻撃者に悪用されないよう、定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
を実施することも重要です。攻撃者は、脆弱性のあるサイトを乗っ取って、フィッシングサイトのホスティングに利用することがあります。
VPNの活用
テレワークが増えている現在、公共のWi-Fiを利用する機会も多くなっています。VPN
を使用することで、通信内容を暗号化し、中間者攻撃によるパスワードやクレジットカード情報の盗聴を防ぐことができます。
被害に遭ってしまった場合の対処法
万が一フィッシング詐欺の被害に遭ってしまった場合は、以下の手順で迅速に対応しましょう:
- すぐにパスワードを変更:入力してしまったアカウントのパスワードをすぐに変更
- 金融機関に連絡:クレジットカードや銀行口座の情報を入力した場合は、直ちに金融機関に連絡してカードの停止や口座の凍結を依頼
- 警察に届出:最寄りの警察署またはサイバー犯罪相談窓口に届出
- 証拠の保全:メールや偽サイトのスクリーンショットなどの証拠を保存
まとめ:焦らず確認することが最大の防御
福島県警の黒須課長が述べているように、「個人情報の入力、クレジットカード情報や金融口座の情報を求められた場合、一度立ち止まってください。これは本当なのかと相談してもらうのが最大の防御になる。焦らず相談することを心がけてほしい」という言葉が、フィッシング詐欺対策の本質を表しています。
現在のフィッシング詐欺は、見た目では判断がつかないほど巧妙になっています。しかし、URLの確認、緊急性を煽る文言への警戒、そして何より「一度立ち止まって確認する」という基本的な対応を徹底することで、被害を防ぐことができます。
デジタル社会が進歩する中で、私たち一人ひとりがセキュリティ意識を持ち、適切な対策を講じることが、安全なインターネット環境を維持するために不可欠です。

