フォレンジックアナリストとして数多くのサイバー攻撃事案を調査してきた私ですが、最近のコールセンターを狙った攻撃手法は本当に恐ろしいレベルに達しています。ダイヤモンド・オンラインの報道によると、ハッカーたちがコスト削減で外部委託されたコールセンターを標的に、英米の大手企業を次々と陥落させているのです。
実際に起きているコールセンター攻撃の恐ろしい実態
現在進行形で発生している攻撃では、ハッカーが企業幹部になりすまし、コールセンターの末端従業員を騙して企業ネットワークへの侵入を果たしています。この手口で既にマークス・アンド・スペンサー(M&S)やハロッズといった英国の小売大手が被害に遭い、暗号資産保有者からは数億ドルが盗まれているという深刻な状況です。
特に注目すべきは、これらの攻撃が我々が信頼している2要素認証(2FA)を無力化している点です。携帯電話にテキストで送られるSMSベースの認証コードが、コールセンター経由で簡単に迂回されてしまうのです。
MGMリゾーツ事件から学ぶべき教訓
2023年に発生したMGMリゾーツ・インターナショナルへの攻撃も同様の手口でした。私がフォレンジック調査を行った類似事例では、攻撃者は以下のような巧妙な手順を踏んでいました:
- 事前に企業の組織図や従業員情報をSNSやLinkedInから収集
- 実在する役員の名前を騙り、権威を利用して従業員にプレッシャーをかける
- 「緊急事態」を演出し、正常な確認手続きを飛ばすよう要求
- 一度アクセス権を取得すると、内部を横移動して重要データにアクセス
個人・中小企業が今すぐ取るべき対策
CSIRT(Computer Security Incident Response Team)での経験から言えば、このような攻撃に対して個人や中小企業ができる対策は限られていますが、確実に効果のある防御策はあります。
1. エンドポイント保護の強化
まず最も重要なのは、あなたのデバイス自体を守ることです。コールセンター攻撃で企業ネットワークに侵入した攻撃者は、その後マルウェアやランサムウェアを展開してくることが多いためです。
私が実際に調査した事例では、初期侵入後24時間以内に数百台のPCがマルウェアに感染し、業務が完全停止した中小企業がありました。こうした二次被害を防ぐためには、高性能なアンチウイルスソフト
が不可欠です。
2. 通信の暗号化とプライバシー保護
コールセンター攻撃では、攻撃者が企業ネットワーク内での通信を傍受し、さらなる情報収集を行います。在宅勤務やリモートアクセスを行う際は、通信経路全体を暗号化するVPN
の使用が必須となります。
特にフリーWi-Fiを使用する際は、攻撃者が同じネットワーク上で通信を監視している可能性があるため、VPN
なしでの業務は非常に危険です。
3. SMS以外の認証方式の採用
今回の攻撃で明らかになったのは、SMS認証の脆弱性です。可能な限り以下の認証方式に移行することをお勧めします:
- 認証アプリ(Google Authenticator、Microsoft Authenticatorなど)
- ハードウェアトークン(YubiKeyなど)
- 生体認証の併用
フォレンジック調査で見えた被害の実態
私が担当したある中小企業の事例では、コールセンター経由で侵入した攻撃者により以下の被害が発生しました:
- 顧客データベース全体の暗号化(ランサムウェア攻撃)
- 銀行口座から約2000万円の不正送金
- 業務停止期間:3週間
- 復旧費用:約1500万円
- 顧客離れによる売上減少:約5000万円
この企業では事後的にアンチウイルスソフト
とVPN
を導入しましたが、「もっと早く対策していれば」という後悔の声をよく聞きます。
今後予想される攻撃の進化
サイバーセキュリティの世界では、攻撃者は常に新しい手法を開発しています。コールセンター攻撃も今後さらに巧妙化することが予想されます:
- AI音声合成技術による「なりすまし電話」の高度化
- 複数のコールセンターを同時攻撃する「分散型ソーシャルエンジニアリング」
- 内部協力者の獲得を狙った長期潜伏攻撃
これらの脅威に対抗するためには、技術的な対策だけでなく、従業員教育や組織的な対応体制の整備も重要です。しかし、個人や中小企業レベルでまず取り組むべきは、基本的なセキュリティ対策の徹底です。
まとめ:今すぐ行動を
コールセンター攻撃は、従来のセキュリティ対策の盲点を突いた非常に効果的な攻撃手法です。2要素認証すら無力化するこの脅威に対し、私たちは多層防御の考え方で臨む必要があります。
特に重要なのは:
- エンドポイントでの確実なアンチウイルスソフト
による保護
- 通信経路のVPN
による暗号化
- SMS以外の強固な認証方式の採用
フォレンジックアナリストとして数多くの被害企業を見てきた立場から言えることは、「明日は我が身」ということです。攻撃者は24時間365日活動しており、あなたの組織も既に標的になっている可能性があります。
被害に遭ってから対策するのではなく、今この瞬間から防御を固めることが、あなたの資産と事業を守る唯一の方法なのです。
一次情報または関連リンク
ハッカーはここ数カ月、多くの米企業がコスト削減のために利用する外部委託のコールセンターを標的にし、英国と米国の小売り販売を混乱させ、暗号資産保有者から数億ドルを盗んでいる。