【実例解説】NHS病院ランサムウェア攻撃で患者死亡が発生 – 医療機関を狙うサイバー攻撃の恐ろしい実態

医療機関への攻撃が命に関わる深刻な事態に

2024年6月にロンドンのNHS(英国国民保健サービス)を標的としたランサムウェア攻撃により、ついに患者の死亡例が確認されました。この事件は、サイバー攻撃が単なる「システム停止」では済まない、人命に直結する問題であることを改めて浮き彫りにしています。

現役のCSIRTメンバーとして、このような医療機関を狙った攻撃は年々増加傾向にあり、その手口も巧妙化していることを肌で感じています。今回の事例を詳しく分析し、個人や中小企業でも実践できる対策について解説します。

攻撃の全貌:Qilinランサムウェアグループの犯行

今回の攻撃を実行したのは、ロシア語系のランサムウェアグループ「Qilin(キリン)」です。彼らが標的としたのは、複数のNHS病院グループに病理診断サービスを提供するSynnovis社でした。

被害の詳細

  • 400GB以上のデータが暗号化・窃取される
  • 血液検査システムが完全停止
  • O型血液の全国的な不足を引き起こす
  • 患者の氏名、生年月日、NHS番号、血液検査結果が流出
  • 170件の患者被害が報告(うち1名が死亡)

特に深刻だったのは、血液の型判定システムが使用不能になったことです。これにより、緊急時にはO型の汎用血液のみに頼らざるを得なくなり、全国的なO型血液不足という二次被害まで発生しました。

なぜ医療機関が狙われるのか

フォレンジック調査の現場で見てきた経験から言うと、医療機関が攻撃者に狙われる理由は明確です:

1. 高額な身代金を支払う可能性が高い

人命に関わるシステムであるため、復旧を急ぐあまり身代金を支払ってしまうケースが多いのです。実際、過去の事例でも医療機関の身代金支払い率は他業界より高い傾向にあります。

2. セキュリティ対策が後回しになりがち

医療現場では患者の治療が最優先されるため、ITセキュリティへの投資や対策が後回しになることが多いのが現実です。

3. 古いシステムの使用

医療機器に接続された古いWindowsシステムなど、セキュリティパッチが適用されていないシステムが多く存在します。

個人・中小企業でも他人事ではない理由

「うちは医療機関じゃないから関係ない」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。私が担当したフォレンジック調査では、以下のような事例が増えています:

実際の被害事例

事例1:従業員10名の建設会社
社員の1人が業務メールと偽装したフィッシングメールを開封。ランサムウェアに感染し、工事図面や顧客情報を含む全データが暗号化されました。復旧に2週間を要し、工期遅延による損害賠償が発生。

事例2:個人経営の税理士事務所
古いWindowsで動作する会計ソフトの脆弱性を突かれ、顧客の確定申告データが全て暗号化。税務署への提出期限に間に合わず、多数の顧客から信頼を失う結果に。

事例3:在宅ワーカーの個人被害
フリーランスのWebデザイナーが、クライアントからのファイルと偽装されたランサムウェアを実行。5年分の制作物と顧客データを失い、事業継続が困難に。

今すぐ実践すべき対策

これらの事例を踏まえ、個人・中小企業でも今すぐ実践できる対策をご紹介します:

1. 信頼できるアンチウイルスソフト の導入

基本中の基本ですが、これが最も重要です。無料のウイルス対策ソフトでは、最新のランサムウェア攻撃に対応しきれません。特に、以下の機能を持つ製品を選びましょう:

  • リアルタイム保護機能
  • ランサムウェア専用の検知機能
  • フィッシングメール対策
  • Webサイトの安全性チェック

2. 定期的なバックアップの実行

「3-2-1ルール」を実践しましょう:

  • 3箇所以上にバックアップを保存
  • 2種類以上の異なる媒体を使用
  • 1つは完全にオフライン(ネットワークから切断)で保管

3. VPN の活用

特に在宅ワークやカフェでの作業時には、VPN 0が必須です。公共Wi-Fiを使用する際の通信暗号化だけでなく、攻撃者からの追跡を困難にする効果もあります。

4. 従業員教育の徹底

技術的な対策だけでなく、人的な対策も重要です:

  • 怪しいメールの見分け方
  • USBメモリの取り扱い方法
  • パスワード管理の方法
  • インシデント発生時の連絡体制

攻撃を受けてしまった場合の対応

万が一攻撃を受けてしまった場合は、以下の手順で対応してください:

  1. すぐにネットワークから切断:被害拡大を防ぐため
  2. 証拠保全:画面のスクリーンショットを撮影
  3. 専門機関への相談:警察のサイバー犯罪相談窓口やJPCERT/CCに連絡
  4. 身代金は支払わない:支払っても復旧の保証はありません
  5. フォレンジック調査の実施:被害範囲と原因の特定

まとめ:予防こそが最大の防御

今回のNHS病院での事例は、サイバー攻撃が人命に関わる深刻な問題であることを示しています。しかし、適切な対策を講じることで、多くの攻撃は防ぐことができます。

重要なのは「自分は大丈夫」という思い込みを捨て、今すぐ行動を起こすことです。アンチウイルスソフト 0VPN 0の導入、定期的なバックアップなど、基本的な対策から始めましょう。

サイバーセキュリティは一度設定すれば終わりではありません。継続的な対策と意識の向上が、あなたの大切なデータと事業を守る鍵となります。

一次情報または関連リンク

Financial Times – NHS cyber attack report
The Independent – Patient death cyber attack NHS report

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