先日、特殊詐欺対策を手がけるトビラシステムズから衝撃的な調査結果が発表されました。これまで高齢者が主なターゲットだったオレオレ詐欺で、なんと65歳未満の現役世代の被害が50%を超えたというのです。
フォレンジックアナリストとして数多くのサイバー犯罪事例を分析してきた私が見ても、この手口の巧妙化は危険なレベルに達しています。今回は、この新たな脅威について詳しく解説し、個人や中小企業が取るべき対策をお伝えします。
被害者層の激変:高齢者から若年層へのシフト
2023年まで、オレオレ詐欺の被害者の9割は65歳以上の高齢者でした。しかし、2024年以降この状況が一変。2025年に入ってからは65歳未満の被害者が50%を超え、その中でも20〜30代の若年層が半数以上を占めているのです。
なぜこのような変化が起きたのでしょうか?犯罪者たちは従来の「息子や孫を装う手口」から、より効果的な「警察官などの権威者を装う手口」にシフトしたからです。
新手口の3つの特徴
1. 携帯電話を狙い撃ち
2025年3月の統計では、警察官をかたる詐欺の約7割が携帯電話への着信でした。スマートフォンを日常的に使う若年層が格好のターゲットになっているのです。
2. 権威による恐怖支配
「あなたの口座が不正利用されている」「捜査に協力しないと逮捕する」といった権威的な脅しで、被害者を恐怖状態に陥れます。冷静な判断力を奪うこの手法は、年齢を問わず効果的です。
3. 最新技術の悪用
電話からメッセージアプリに誘導し、偽の逮捕状や警察手帳の画像を送信。さらにビデオ通話で制服を着た偽警察官が登場したり、生成AIで映像を加工したりと、手口が極めて巧妙化しています。
実際のフォレンジック事例から見る被害パターン
私が関わった事例では、30代のIT企業勤務の男性が被害に遭いました。平日の昼間、スマートフォンに「警察庁金融犯罪対策課」を名乗る人物から着信。「あなたの銀行口座が詐欺グループに悪用されている」と告げられ、LINEでのやり取りに移行しました。
送られてきたのは本物そっくりの警察手帳の画像と逮捕状。さらにビデオ通話で制服を着た人物が登場し、「捜査のため一時的に資金を移動させる必要がある」と説明。結果的に300万円を騙し取られました。
この事例で特に注目すべきは、被害者がITリテラシーの高い現役世代だった点です。普段からセキュリティ意識を持っていたにも関わらず、巧妙な演出と権威への恐怖で判断力を失ってしまったのです。
中小企業も標的に:ビジネス詐欺の増加
個人だけでなく、中小企業も同様の手口で狙われています。「税務署」や「経済産業省」を名乗る詐欺師が、「不正申告の疑いがある」「調査に協力しないと営業停止処分」などと脅迫。経営者を恐怖状態に陥れて金銭を騙し取る事例が増加しています。
ある製造業の社長は、「国税庁特別調査班」を名乗る人物から「脱税の疑いで調査中。協力金として500万円が必要」と要求され、会社の運転資金を失いました。
技術的対策と心構え
immediate対策
まず実行すべきは技術的なフィルタリングです。多くの詐欺電話は国際電話番号(+1、+86など)や非通知番号から発信されるため、これらの着信拒否設定は必須です。
しかし、技術的対策だけでは限界があります。最近は国内の携帯電話番号も悪用されており、完全な防御は困難です。
総合的なセキュリティ対策
個人や中小企業のセキュリティを考える上で、包括的な対策が重要です。特に、パソコンやスマートフォンには信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入をお勧めします。詐欺サイトへのアクセスブロックや、マルウェア感染の防止に効果的です。
また、インターネット利用時にはVPN
の使用も検討しましょう。通信の暗号化により、詐欺師による通信傍受や個人情報の盗取を防ぐことができます。
被害に遭わないための5つの鉄則
- 電話で「お金」の話が出たら即座に切る
正当な機関が電話で金銭の要求をすることはありません。 - メッセージアプリでの連絡は詐欺
警察や官公庁がLINEやテレグラムで連絡することはありません。 - 画像や書類は全て偽物と疑う
今の技術なら、本物そっくりの偽書類は簡単に作れます。 - 一人で判断しない
必ず家族や同僚、信頼できる人に相談してください。 - 公式ルートで確認
不安な場合は、警察相談専用電話(#9110)や関係機関に直接確認しましょう。
まとめ:新時代の詐欺に備える
今回の調査結果は、詐欺の手口が従来の常識を覆すレベルで進化していることを示しています。高齢者だけでなく、ITリテラシーの高い現役世代も標的となる時代です。
重要なのは、技術的対策と正しい知識の両方を身につけることです。アンチウイルスソフト
やVPN
といったセキュリティツールの活用と合わせて、常に最新の詐欺手口について情報収集を怠らないことが大切です。
「自分は大丈夫」という過信は禁物です。今日紹介した事例を参考に、ぜひ身の回りのセキュリティ対策を見直してみてください。