2024年度の個人情報漏えい件数が過去最多の2万1007件に達したというニュースが飛び込んできました。前年比58%増という驚異的な数字に、多くの方が不安を感じているのではないでしょうか。
特に注目すべきは、社会保険労務士向けシステムを運営するエムケイシステムへの不正アクセス事件です。この一件だけで2745件もの個人情報漏えい報告があり、マイナンバー関連だけでも1726件の被害が確認されています。
企業システムの脆弱性が個人に与える影響
現役のCSIRTメンバーとして数多くのインシデント対応を経験してきた立場から言わせてもらうと、この事件は氷山の一角に過ぎません。実際のフォレンジック調査現場では、以下のような被害パターンを頻繁に目にします:
- 業務委託先からの漏えい:税理士事務所や社労士事務所経由での個人情報流出
- メール誤送信:CCとBCCの間違いによる顧客情報の一斉配信
- USBメモリ紛失:暗号化されていない記録媒体の紛失
- 内部不正:退職予定者による顧客データの持ち出し
個人ができる現実的な防御策
「企業側の問題なんだから個人では対処できない」と思われがちですが、実はそうでもありません。フォレンジック調査を通じて見えてきた個人レベルでの対策をご紹介します。
1. パスワード管理の徹底
多くの漏えい事件では、流出したメールアドレスとパスワードを使った「パスワードリスト攻撃」が二次被害を生みます。同じパスワードを使い回していると、一つのサービスから漏れただけで他のアカウントも危険にさらされてしまいます。
2. 通信の暗号化対策
公共Wi-Fiでの個人情報入力は非常に危険です。実際に弊社で調査した事例では、カフェのWi-Fi経由でクレジットカード情報が盗まれたケースもありました。外出先でのインターネット利用時はVPN
の使用を強く推奨します。
3. デバイスレベルでの保護
個人のPCやスマートフォンが感染すれば、そこから個人情報が流出する可能性があります。特に最近のマルウェアは非常に巧妙で、感染に気づかないまま長期間情報を抜き取られるケースが増えています。
信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入は、もはや必須と言えるでしょう。無料のソフトもありますが、検出率や誤検知の少なさを考慮すると、有料版の方が安心です。
実際のインシデント事例から学ぶ
先月対応したある中小企業のケースでは、従業員の個人PCがランサムウェアに感染し、そこから会社のクラウドストレージにアクセスされて顧客情報約500件が暗号化されました。幸い適切なバックアップがあったため業務への影響は最小限でしたが、顧客への報告と謝罪で大きな信用失墜を招きました。
この事例で注目すべきは、感染経路が従業員の私用PCだったということです。テレワークが普及した現在、個人デバイスのセキュリティ対策は企業の情報保護にも直結しています。
2025年に向けた対策の重要性
個人情報保護委員会の報告を見ると、事業者への報告義務の周知が進んだことで件数が増加している面もあります。つまり、実際の被害はもっと多い可能性が高いということです。
サイバー攻撃の手法も年々巧妙化しており、従来の「怪しいメールを開かない」「知らないサイトにアクセスしない」といった基本対策だけでは防げないケースが増えています。
まとめ:多層防御の重要性
今回のエムケイシステム事件のような大規模漏えいを完全に防ぐことは個人レベルでは困難ですが、二次被害を最小限に抑えることは可能です。
重要なのは「多層防御」の考え方です:
- 強固なパスワード管理
- VPN
による通信の保護
- アンチウイルスソフト
によるデバイス保護
- 定期的なセキュリティ設定の見直し
これらの対策を組み合わせることで、仮に一つの防御が破られても、他の層で被害を食い止めることができます。
サイバーセキュリティは「完璧」を目指すのではなく、「被害を最小限に抑える」ことが現実的なアプローチです。個人情報漏えい件数が過去最多となった今だからこそ、自分自身でできる対策をしっかりと講じておきましょう。