サイバーセキュリティ大手のGenが、Avastブランドから「アバスト 詐欺ガーディアン」という画期的なAI詐欺対策サービスを無料提供開始しました。現役のCSIRTメンバーとして数々のインシデント対応を経験してきた私から見ると、これは個人や中小企業にとって非常に心強いニュースです。
フィッシング詐欺の現状と被害の深刻さ
最近のフィッシング詐欺は本当に巧妙になっています。私が関わったある事例では、地方の建設会社が偽のマイクロソフトからのメールに騙され、Office365のアカウントを乗っ取られました。攻撃者はそのアカウントから取引先に偽の請求書を送付し、数百万円の被害が発生しました。
また別のケースでは、個人事業主の方がAmazonを装った巧妙な偽メールに引っかかり、クレジットカード情報を入力してしまった結果、不正利用で50万円以上の損害を受けました。こうした事例は氷山の一角に過ぎません。
「アバスト 詐欺ガーディアン」の3つの防御機能
今回発表されたサービスには、以下の3つの機能が搭載されています:
1. アバストアシスタント(無料)
怪しいウェブサイトやメールについて、AIが対策ガイダンスを提供します。「このメール、なんか変だけど大丈夫かな?」といった疑問を自然言語で投げかけると、AIが次に取るべき行動を分かりやすく教えてくれます。
2. Webガード(無料)
数百万のウェブサイトデータで訓練されたAIが、リアルタイムで詐欺サイトを検知します。「Gen Threat Labs」の統計データも活用しているため、最新の脅威にも対応可能です。
3. メールガード(有料版)
メールの文脈や言語の意味をAI分析し、開封前に詐欺メールを判別します。これは特に中小企業の経理担当者などには重宝する機能でしょう。
フォレンジック調査で見えた被害の実態
フォレンジック調査を行っていると、多くの被害者に共通する特徴があります。それは「まさか自分が狙われるとは思わなかった」という油断です。
ある製造業の中小企業では、経理部長が巧妙な偽メールに騙され、取引先への振込先口座を変更してしまいました。幸い被害は未然に防げましたが、調査の過程で同様の攻撃メールが複数回届いていたことが判明しました。もしAIによる事前検知機能があれば、このようなヒヤリハット事例は大幅に減らせるはずです。
個人・中小企業が今すぐできる対策
Avastの新サービスのようなアンチウイルスソフト
は確かに有効ですが、それだけに頼るのは危険です。多層防御の考え方が重要です。
技術的対策
– 信頼できるアンチウイルスソフト
の導入
– 定期的なソフトウェア更新
– VPN
の活用(特にフリーWiFi使用時)
– メールフィルタリングの設定
人的対策
– 従業員への定期的なセキュリティ教育
– 疑わしいメールの報告体制構築
– 金銭に関わる処理の複数人チェック体制
AIと人間の連携が鍵
今回のAvastのサービスで注目すべきは、AIが完全自動で判断するのではなく、人間のユーザーに適切なガイダンスを提供する点です。私の経験上、セキュリティで最も重要なのは「怪しいと思ったら立ち止まる」習慣です。AIがその判断をサポートしてくれるのは非常に心強いですね。
実際、ある小売業の事例では、店長が「なんとなく怪しい」と感じたメールを情報システム部門に相談したことで、標的型攻撃を未然に防ぐことができました。技術と人間の直感の組み合わせが最強の防御なのです。
まとめ:防御の多層化が生き残りの鍵
Avastの新サービスは確実に防御力向上に貢献するでしょう。しかし、サイバー攻撃者も日々進化しています。一つのツールに依存するのではなく、アンチウイルスソフト
、VPN
、従業員教育、そして組織的な対応体制の構築といった多層防御が不可欠です。
特に中小企業の経営者の方には、「うちは狙われない」という思い込みを捨てて、今すぐできる対策から始めることをお勧めします。被害が発生してからでは、復旧にかかるコストは対策費用の何倍にもなってしまいますから。