最近、工場やインフラ設備の制御システム(OT:Operational Technology)を狙ったサイバー攻撃が急激に増えています。名古屋港のコンテナターミナルシステムやトヨタのサプライチェーン全体が攻撃を受け、数日間にわたって機能停止に追い込まれた事件は記憶に新しいところです。
私がフォレンジックアナリストとして現場で目の当たりにしてきた事例を踏まえ、個人や中小企業の皆さんにも関係する重要なサイバーセキュリティ対策について解説します。
OTシステムへの攻撃が急増している背景
従来、工場や設備の制御システムは「閉ざされたネットワーク」で運用されていました。しかし、デジタル化の波により、これらのシステムもインターネットに接続されるようになったんです。
確かに効率性は向上しましたが、同時に外部からの攻撃ルートも増えてしまいました。特に問題となっているのが以下の点です:
- USBからネットワーク経由へ:以前は現地でUSBを挿すような物理的なアクセスが必要だった攻撃が、今やネット経由で可能に
- リモートワークの普及:セキュリティ意識の低い端末からの侵入経路が拡大
- ラテラルムーブメント:一箇所から侵入して、内部ネットワークを移動しながら被害を拡大
実際のフォレンジック事例から見える攻撃パターン
私がCSIRTとして関わった事例では、ある中小製造業で以下のような攻撃が発生しました:
事例1:リモートアクセス経由の侵入
メンテナンス業者のリモートアクセス用PCがマルウェアに感染。そこから製造ラインの制御システムに侵入され、生産停止に。復旧まで1週間、損失額は数千万円に及びました。
事例2:取引先経由の感染拡大
取引先の経理部門がランサムウェアに感染。VPNで接続されたネットワーク経由で当該企業の生産管理システムまで感染が拡大。顧客データも暗号化され、身代金を要求されました。
個人・中小企業が今すぐできる対策
「うちは大企業じゃないから大丈夫」という考えは危険です。むしろ中小企業の方がセキュリティが手薄で、大手企業への踏み台として狙われやすいんです。
1. 基本的なエンドポイント保護
まず最優先で導入すべきは、高品質なアンチウイルスソフト
です。無料版ではなく、ビジネス向けの有料版を選びましょう。ランサムウェアの検知・防御機能、リアルタイム監視、定期的な自動スキャンは必須機能です。
特に製造業や建設業など、OTシステムを扱う業界では、従来のパターンマッチング型だけでなく、行動分析型のアンチウイルスソフト
が効果的です。
2. ネットワーク分離の徹底
可能な限り、業務用ネットワークと制御システムは物理的に分離してください。どうしても接続が必要な場合は、ファイアウォールによる厳格なアクセス制御を設定しましょう。
3. リモートアクセスのセキュリティ強化
在宅勤務や外部業者のリモートアクセスには、企業向けのVPN
を導入することを強く推奨します。単純なリモートデスクトップ接続は非常にリスクが高いです。
VPN
を使用することで、通信の暗号化、IPアドレスの隠蔽、不正アクセスの検知が可能になります。特に海外の取引先とやり取りがある場合は必須です。
4. 従業員教育の重要性
技術的対策だけでは限界があります。フィッシングメール、USBメモリの取り扱い、パスワード管理など、基本的なセキュリティ教育を定期的に実施してください。
被害を受けた場合の初動対応
万が一攻撃を受けた場合、初動対応が被害の拡大を左右します:
- 感染端末の即座な隔離:ネットワークから物理的に切断
- 影響範囲の特定:どのシステムが影響を受けているか確認
- 専門機関への連絡:警察のサイバー犯罪相談窓口、JPCERT/CCなど
- 証拠保全:ログファイル、メモリダンプの取得(可能であれば)
継続的な監視とアップデート
サイバーセキュリティは「導入して終わり」ではありません。脅威は日々進化しているため、継続的な監視とアップデートが不可欠です。
特にアンチウイルスソフト
とVPN
は、定期的にライセンスを更新し、最新の脅威データベースを維持してください。また、システムのOSやアプリケーションも常に最新状態に保つことが重要です。
まとめ:予防こそ最大の防御
OTシステムへのサイバー攻撃は、もはや大企業だけの問題ではありません。個人事業主や中小企業も例外なく標的となり得ます。
重要なのは「攻撃を受けてから対応する」のではなく「攻撃を受ける前に備える」こと。基本的なアンチウイルスソフト
とVPN
の導入から始めて、段階的にセキュリティレベルを向上させていきましょう。
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