IT資産管理がサイバー攻撃対策の最前線に
Sky株式会社が2025年7月15日に開催するセミナー「サイバー攻撃対策の第一歩 IT資産の全数把握とWindows更新管理で守る安全なシステム運用」が注目を集めています。なぜ今、IT資産管理がサイバーセキュリティの要となっているのでしょうか。
現役CSIRTとして数多くのインシデント対応に携わってきた経験から言えるのは、サイバー攻撃の大半は「見えていない資産」から始まるということです。攻撃者は必ず組織の死角を狙ってきます。
実際にあったIT資産管理不備による被害事例
私が対応した案件の中で印象的だったのは、従業員50名程度の製造業企業での事例です。この企業では、本社のPCは管理されていたものの、工場の制御システム用PCが完全に管理対象外となっていました。
攻撃者はその「見えないPC」を踏み台にして、3か月間にわたり企業内部を探索し続けました。発覚時には顧客データ約2万件が外部に流出していたのです。被害総額は約8000万円に及びました。
フォレンジック調査で見えてくる攻撃の手口
段階的に進む現代のサイバー攻撃
最近のサイバー攻撃は非常に巧妙です。フォレンジック調査を行うと、以下のような段階的なプロセスが見えてきます:
第1段階:偵察フェーズ
攻撃者は標的組織のIT資産を外部から調査します。公開されているサーバー情報、従業員のSNS投稿、求人サイトの技術要件などから、使用している技術スタックを推測します。
第2段階:初期侵入
多くの場合、メール添付ファイルやフィッシングサイトを使った初期侵入が行われます。ここで重要なのは、侵入先となるエンドポイントが適切に管理・監視されているかどうかです。
第3段階:権限昇格と横断移動
初期侵入に成功した攻撃者は、ネットワーク内の他のシステムへと移動を試みます。この段階で「管理されていない資産」があると、攻撃者にとって格好の隠れ家となってしまいます。
中小企業こそ狙われる理由
「うちは小さな会社だから狙われない」と考えるのは危険です。むしろ中小企業こそ、以下の理由で攻撃対象となりやすいのが現実です:
– セキュリティ対策が大企業より手薄
– IT資産管理が不十分
– セキュリティ人材の不足
– 大企業への攻撃の踏み台として利用価値が高い
実際、私が対応した案件の約7割は従業員100名以下の企業でした。
今すぐできるIT資産管理の実践法
Step1:資産の可視化
まずは組織内にあるすべてのIT機器を把握することから始めましょう。見落としがちなのは以下のような機器です:
– 個人所有のPC(BYOD)
– IoTデバイス(プリンター、監視カメラなど)
– 古いサーバーやNAS
– 開発・テスト環境の機器
Step2:脆弱性管理
資産が把握できたら、次は脆弱性管理です。特にWindows Update管理は基本中の基本ですが、多くの組織で適切に行われていません。
ある中小IT企業では、開発者が作業の邪魔になるという理由でWindows Updateを停止していました。結果として、既知の脆弱性を悪用されて機密情報が漏洩する事態となりました。
Step3:エンドポイント保護
各端末には信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入が必須です。単なるウイルス検知だけでなく、不審な動作を検知・ブロックする高度な機能を持つものを選択しましょう。
テレワーク時代の新たな脅威
家庭ネットワークからの攻撃
テレワークの普及により、家庭のネットワーク経由での攻撃が増加しています。私が調査した案件では、従業員の自宅のルーターが乗っ取られ、そこから企業ネットワークへの不正アクセスが行われていました。
このような脅威に対しては、企業ネットワークへの接続時にVPN
を使用することで、通信の暗号化と匿名化を図ることが重要です。
Shadow ITの脅威
IT部門が把握していないクラウドサービスやアプリケーションの使用(Shadow IT)も大きなリスクです。従業員が業務効率化のために無断で使用したクラウドストレージから、機密情報が漏洩した事例も複数確認しています。
Sky株式会社セミナーの注目ポイント
今回のSky株式会社のセミナーでは、「IT資産の全数把握」と「Windows更新管理」という、まさにサイバー攻撃対策の基本中の基本が取り上げられます。
このようなセミナーに参加する際は、以下の点に注目することをお勧めします:
– 具体的な資産管理ツールの活用方法
– 更新管理の自動化手法
– インシデント発生時の対応フロー
– コスト効率の良いセキュリティ投資の優先順位
フォレンジックアナリストが推奨する追加対策
ログ管理の重要性
IT資産管理と並んで重要なのがログ管理です。インシデント発生時、適切なログが残っていないと原因究明が困難になります。最低限、以下のログは保管しておきましょう:
– 認証ログ
– ネットワーク通信ログ
– ファイルアクセスログ
– システム変更ログ
定期的なセキュリティ監査
IT資産管理は一度行えば終わりではありません。組織の成長や技術の進歩に合わせて、定期的な見直しが必要です。
四半期に一度は以下の項目をチェックすることをお勧めします:
– 新規追加された機器の把握
– 退職者のアカウント削除状況
– ソフトウェアライセンスの最新化
– セキュリティポリシーの遵守状況
まとめ:今こそIT資産管理でセキュリティ基盤を強化
Sky株式会社のセミナーが示すように、サイバー攻撃対策の第一歩はIT資産の全数把握です。フォレンジック調査の現場で痛感するのは、「見えない資産」こそが最大の脅威となるということです。
個人や中小企業であっても、以下の基本的な対策を実施することで、サイバー攻撃のリスクを大幅に減らすことができます:
1. 組織内のすべてのIT資産を可視化する
2. 定期的なセキュリティ更新を確実に実施する
3. エンドポイントに信頼性の高いアンチウイルスソフト
を導入する
4. テレワーク環境ではVPN
を活用する
5. ログ管理とインシデント対応体制を整備する
これらの対策は、決して高額な投資を必要とするものではありません。重要なのは、継続的で体系的なアプローチです。
今回のセミナーのような学習機会を活用し、組織のセキュリティレベル向上に取り組んでいただければと思います。