こんにちは。サイバーセキュリティの現場で長年フォレンジック調査に携わってきた私が、最近深刻化している製造業でのサイバー攻撃について、現役CSIRTの目線でお話しします。
製造業のデジタル化が進む中、サイバー攻撃の脅威は日々増大しています。2022年のサイバー攻撃関連通信数は約5,226億パケットと、2015年の約8.3倍に激増。この数字は、私たちセキュリティ専門家が日夜対応している攻撃の実態を如実に物語っています。
製造業を狙うサイバー攻撃の実態
現場での調査経験から言えるのは、製造業が特に狙われやすい理由がいくつもあることです。工場の自動化システム、産業制御システム(ICS)、運用技術(OT)といった重要インフラが狙い撃ちされています。
増加する攻撃パターン
- ランサムウェア攻撃:生産ラインを人質に身代金を要求
- フィッシング攻撃:従業員を騙して認証情報を窃取
- 産業制御システム攻撃:工場の制御システムを直接標的
- サプライチェーン攻撃:取引先から侵入して本丸を狙う
実際のフォレンジック事例から見える被害
私が関わった調査事例では、中小の部品メーカーがランサムウェア攻撃を受け、24時間稼働していた生産ラインが完全停止。復旧まで1週間を要し、大手自動車メーカーへの納期遅延が発生しました。初期侵入経路は、従業員が受信したフィッシングメールからでした。
また、ある精密機器メーカーでは、サプライチェーン攻撃により設計図面が窃取される事案も発生。攻撃者は協力会社のシステムから侵入し、約3ヶ月間にわたって機密情報を窃取し続けていました。
サプライチェーン攻撃の深刻化
特に注意すべきは、サプライチェーン攻撃の巧妙化です。攻撃者は、セキュリティが手薄な中小企業をまず狙い撃ちし、そこを踏み台にして大手企業のネットワークに侵入します。
実際の調査では、攻撃者が小さな部品メーカーのシステムに侵入後、取引先である大手製造業のVPNアクセス権限を窃取。結果として、複数企業にまたがる大規模な情報漏洩事件に発展したケースもありました。
個人・中小企業でもできる効果的な対策
フォレンジック調査の現場で見てきた経験から、最低限実施すべき対策をお伝えします。
1. エンドポイント保護の強化
従業員が使用するPCには、必ず高性能なアンチウイルスソフト
を導入してください。最新の脅威に対応できるリアルタイム検知機能が重要です。無料版では検知できない巧妙な攻撃も多いため、企業利用では有料版の導入を強く推奨します。
2. リモートアクセスの安全性確保
製造業でもテレワークが増加している今、VPN
の利用は必須です。特に工場システムへのリモートアクセスでは、通信の暗号化が攻撃者の侵入を防ぐ重要な防御線となります。
3. 従業員教育の徹底
調査した事案の約7割は、従業員の不注意が初期侵入の原因でした。定期的なセキュリティ教育と、フィッシングメール訓練の実施が効果的です。
4. システムの定期更新
古いシステムの脆弱性を狙った攻撃が多発しています。OSやソフトウェアの定期更新は基本中の基本です。
緊急時の対応体制構築
攻撃を受けた際の初動対応が被害の拡大を防ぎます。以下の体制を事前に整備しておきましょう:
- インシデント対応チームの編成
- 緊急連絡網の整備
- システム隔離手順の策定
- 外部専門機関との連携体制
継続的なセキュリティ向上のために
サイバーセキュリティは一度対策すれば終わりではありません。攻撃手法は日々進化しており、私たちも常に最新の脅威情報を収集し、対策を更新し続けています。
特に製造業では、経済産業省の「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」を参考に、自社の状況に合わせたセキュリティ対策を段階的に実装することをお勧めします。
予算が限られる中小企業でも、まずは基本的なアンチウイルスソフト
とVPN
の導入から始めることで、多くの攻撃を防ぐことが可能です。完璧を求めすぎて何もしないより、できることから確実に実行することが重要です。
まとめ:今すぐ行動を
製造業を狙うサイバー攻撃は確実に増加しており、その手法も巧妙化しています。しかし、適切な対策を講じることで、多くの攻撃は防ぐことができます。
私がフォレンジック調査で関わった企業の多くは、「まさか自分たちが狙われるとは思わなかった」と話されます。しかし現実には、企業規模に関係なく攻撃は発生しています。
今すぐできることから始めて、段階的にセキュリティレベルを向上させていきましょう。あなたの会社と従業員、そして取引先を守るために、行動することが何より大切です。