企業を狙うサイバー攻撃の現実と新たな防御戦略
最近のサイバー攻撃は、企業だけでなく個人も巻き込む複雑な手法が増えています。現役のCSIRTメンバーとして数多くのインシデント対応に携わってきた経験から言うと、従来の「境界防御」だけでは、もはや限界があるのが現実です。
攻撃者は、あなたが想像している以上に巧妙で組織的です。彼らは攻撃を仕掛ける前に、まるで探偵のように情報収集を行い、綿密な計画を立てています。
実際のサイバー攻撃事例から見る攻撃者の手口
私が対応した事例の一つに、中小企業への標的型攻撃がありました。攻撃者は最初の3ヶ月間、以下のような準備活動を行っていました:
- 社長のSNSアカウントから趣味や関心事を調査
- 従業員のLinkedInプロフィールから組織構造を把握
- 会社のWebサイトから使用している技術スタックを推測
- ダークウェブで類似企業への攻撃ツールを購入
この段階では、まだ直接的な攻撃は行われていません。しかし、攻撃者はすでに「戦略」を練り上げていたのです。
ASMとERMが注目される理由
ASM(攻撃対象領域管理)とは
ASMは、攻撃者の視点から自社の「攻撃可能な領域」を可視化する仕組みです。従来は社内から外を見る視点でしたが、ASMでは攻撃者と同じ視点で「外から内」を観察します。
ERM(外部リスク管理)の重要性
ERMは、企業の外側に存在する脅威を継続的に監視し、リスクを評価する手法です。ダークウェブの監視、フィッシングサイトの検出、偽ブランドサイトの発見などが含まれます。
個人も狙われる時代のセキュリティ対策
企業だけでなく、個人も攻撃の起点として狙われています。実際に、従業員の個人端末が感染し、そこから企業ネットワークに侵入された事例も多数あります。
個人ユーザーが実践すべき対策
1. 包括的なアンチウイルスソフト の導入
現代のアンチウイルスソフト
は、従来のウイルス検出だけでなく、フィッシングサイトの検出、不審な通信の監視、ランサムウェア対策など多機能です。特に、リアルタイム監視機能は攻撃の初期段階での検出に有効です。
2. VPN による通信の保護
在宅勤務やカフェでの作業時、VPN
は必須のツールです。攻撃者は公共Wi-Fiを悪用して通信を傍受することがよくあります。VPN
を使用することで、通信内容の暗号化とIPアドレスの匿名化が可能になります。
企業が取り組むべき新世代セキュリティ戦略
多層防御から予兆検知への転換
従来の多層防御は「攻撃が来てから対応する」受動的なアプローチでした。しかし、ASMとERMを活用することで、攻撃者の準備段階で脅威を検知し、先手を打つことが可能になります。
実践的なASM・ERM導入ステップ
- 資産の可視化:自社のデジタル資産をすべて洗い出す
- 外部監視の設定:ダークウェブ、フィッシングサイト、偽サイトの監視
- 脅威インテリジェンスの活用:業界特有の攻撃パターンの把握
- 継続的な改善:検知した脅威をもとにした対策の強化
現役CSIRTから見た今後の展望
サイバーセキュリティの世界は常に進化しています。AIを活用した攻撃手法が増加する一方で、防御側でもAIを活用した検知技術が発達しています。
重要なのは、攻撃者の思考パターンを理解し、彼らより先回りすることです。ASMとERMは、まさにその「先回り」を可能にする技術です。
個人でもできる「予兆検知」の実践
企業レベルの高度なASM・ERMは導入が困難でも、個人レベルでできることはあります:
- 自分の名前やメールアドレスがダークウェブに流出していないかの定期チェック
- 偽のSNSアカウントやなりすましサイトの監視
- クレジットカード情報の不正利用監視
- パスワード漏洩の監視サービス利用
まとめ:攻撃の予兆を見逃さないために
サイバー攻撃の脅威は年々高まっていますが、適切な対策により被害を最小限に抑えることが可能です。企業にはASMとERMの導入を、個人には信頼性の高いアンチウイルスソフト
とVPN
の利用をお勧めします。
攻撃者は常に新しい手法を開発していますが、私たち防御側も負けてはいられません。予兆を見逃さず、先手を打つセキュリティ戦略こそが、これからの時代に求められるアプローチなのです。