2025年7月2日、愛知県の高校受験生が利用する「愛知全県模試」を運営する学悠出版が、不正アクセスにより約30万件の個人情報が流出した可能性があると発表しました。この事件は、教育機関を狙ったサイバー攻撃の深刻さを改めて浮き彫りにしています。
今回の事件の概要
学悠出版によると、2025年4月下旬にサーバーへの不正アクセスが発生し、保管していた個人情報約30万件が流出した可能性があります。流出した情報には以下が含まれています:
- 受験生の氏名、住所、電話番号
- 保護者の氏名、メールアドレス
- その他の個人情報
愛知全県模試は県内の高校を受験する中学生を対象とした合格可能性判定模試で、昨年度1年間でのべ約16万人が受験しているという規模の大きなサービスです。
教育機関を狙うサイバー攻撃の実態
現役のCSIRTメンバーとして数々のインシデント対応に携わってきた経験から言えることは、教育機関は特にサイバー攻撃の格好の標的になりやすいということです。
なぜ教育機関が狙われるのか
教育機関が狙われる理由は複数あります:
- セキュリティ体制の脆弱性:予算制約により最新のセキュリティ対策が不十分
- 大量の個人情報:学生・保護者の詳細な個人情報を保有
- システムの複雑性:様々なサービスが複雑に連携しているため、セキュリティホールが発生しやすい
- 意識の低さ:営利企業に比べてサイバーセキュリティへの意識が低い傾向
過去の教育機関への攻撃事例
実際に私が関わった事例を含め、教育機関へのサイバー攻撃は年々増加しています:
ケース1:地方私立大学のランサムウェア攻撃
2023年に発生したケースでは、地方の私立大学が標的型攻撃を受け、学生約2万人分の個人情報が暗号化されました。攻撃者はビットコインでの身代金を要求し、復旧まで3か月を要しました。
ケース2:学習塾チェーンの不正アクセス
全国展開する学習塾チェーンでは、古いシステムの脆弱性を突かれ、約5万件の生徒・保護者情報が漏洩。攻撃者は情報を闇市場で売買していました。
個人でできる対策
このような事件を受けて、個人レベルでできる対策を整理しておきましょう。
1. 信頼できるアンチウイルスソフト の導入
まず基本となるのが、信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入です。多くの攻撃は、個人のデバイスを起点として組織全体に拡散します。特に家族で共有するパソコンには必須です。
2. VPN の活用
公衆Wi-Fiや不安定なネットワーク環境では、VPN
を使用することで通信内容を暗号化できます。特に学生が利用する場合、学校や塾のWi-Fiを使う際には必須の対策です。
3. パスワード管理の徹底
教育関連のサービスでは、同じパスワードを使い回さないことが重要です。模試の申し込み、学習アプリ、学校のポータルサイトなど、それぞれ異なる強固なパスワードを設定しましょう。
4. フィッシング対策
今回のような事件の後は、必ずと言っていいほど関連するフィッシング詐欺が発生します。学悠出版や関連機関を装ったメールには特に注意が必要です。
被害を受けた場合の対応
もし今回の事件で個人情報が含まれていた場合、以下の対応を取ることをお勧めします:
- 公式発表の確認:学悠出版からの正式な連絡を待つ
- クレジットカード情報の確認:不正利用がないかチェック
- 迷惑メール・電話への警戒:個人情報を悪用した詐欺に注意
- パスワード変更:関連するすべてのアカウントのパスワードを変更
組織側の対策とは
フォレンジック調査の現場から見えてくるのは、多くの教育機関がインシデント発生後に初めて自分たちのセキュリティ体制の甘さに気づくということです。
今回の学悠出版の対応は比較的迅速でしたが、4月下旬の発生から7月の発表まで約2か月のタイムラグがありました。この間、どのような調査と対策が行われたかが今後の再発防止の鍵となります。
今後の展望
教育のデジタル化が進む中で、このような事件は残念ながら増加傾向にあります。特に個人情報を大量に扱う模試運営会社や学習塾は、より一層のセキュリティ強化が求められます。
私たち個人にできることは限られていますが、適切なセキュリティツールの導入と意識の向上により、被害を最小限に抑えることは可能です。
今回の事件を機に、家族全員のデジタルセキュリティを見直すことをお勧めします。特に受験生を持つご家庭では、アンチウイルスソフト
とVPN
の導入は必須の対策と言えるでしょう。