2025年7月1日、政府は新たなサイバーセキュリティ推進体制として「国家サイバー統括室」を発足させました。これは日本のサイバーセキュリティ体制において歴史的な転換点となる出来事です。
私はこれまで数多くのサイバー攻撃事例を分析してきましたが、今回の政府の取り組みは非常に画期的だと感じています。なぜなら、これまで「受動的」だった日本のサイバー防御が「能動的」に変わるからです。
国家サイバー統括室とは?新体制の全貌
国家サイバー統括室は、石破首相を本部長とする「サイバーセキュリティ戦略本部」の下に設置された司令塔組織です。全閣僚が参加する体制で、2027年からの全面運用を目指しています。
組織の主な特徴
- 本部長:石破茂首相(従来は官房長官)
- 担当相:平将明サイバー安全保障担当相
- 体制:全閣僚参加による政府一体型
- 目標:2027年全面運用開始
実際に私が対応した企業のインシデント事例を振り返ると、多くの場合「攻撃を受けてから対応する」という後手に回るパターンが大半でした。しかし、この新体制では「攻撃を未然に防ぐ」能動的防御が可能になります。
能動的サイバー防御の3つの柱
政府が整備する能動的サイバー防御には、以下の3つの柱があります:
1. 官民の連携強化
民間企業と政府が情報を共有し、リアルタイムで脅威情報を交換する仕組みです。
2. 通信情報の利用
サイバー攻撃の兆候を早期発見するため、通信情報を分析・活用します。
3. 攻撃者サーバーへの侵入・無害化
最も注目すべき点は、警察や自衛隊が攻撃者のサーバーに侵入し、無害化する権限を持つことです。
サイバー攻撃の現状:なぜ今、能動的防御が必要なのか
内閣官房の発表によると、政府機関へのサイバー攻撃と疑われる件数は、直近3年間で約6倍に増加しています。さらに深刻なのは、重要インフラで発生したインシデントに占めるサイバー攻撃の割合が2024年度に初めて50%を超えたことです。
実際の被害事例から見る脅威
私が最近分析した中小企業のランサムウェア被害事例では、以下のような深刻な影響が発生しました:
- 業務停止期間:2週間
- データ復旧費用:約800万円
- 売上損失:約1,500万円
- 顧客信頼失墜による長期的影響
このような被害を未然に防ぐためには、国家レベルでの能動的防御が不可欠なのです。
個人・中小企業が今すぐできる対策
国家サイバー統括室の発足は心強いニュースですが、個人や企業レベルでの対策も重要です。フォレンジック調査の現場で見てきた「被害を最小化できた事例」には、共通点があります。
基本的なセキュリティ対策
1. アンチウイルスソフト の導入と定期更新
多くの攻撃は既知のマルウェアから始まります。高品質なアンチウイルスソフト
を導入し、定期的に更新することで、大部分の脅威をブロックできます。
2. VPN の活用
公衆Wi-Fi利用時やリモートワーク時の通信を暗号化するVPN
は、データ漏洩リスクを大幅に軽減します。
3. 定期的なバックアップ
ランサムウェア被害を受けても、適切なバックアップがあれば復旧可能です。
中小企業向けの追加対策
- 従業員へのセキュリティ教育実施
- 多要素認証の導入
- 定期的なセキュリティ監査
- インシデント対応計画の策定
2027年全面運用に向けた準備
政府は年内に新たなサイバーセキュリティ戦略を取りまとめる予定です。この中で注目すべきは、以下の3つの重点分野です:
1. 深刻化する脅威に対する防止・抑止の実現
従来の「事後対応」から「事前防止」へのシフトが加速します。
2. 社会全体のセキュリティ向上
官民連携による情報共有体制が本格化します。
3. 人材育成と技術革新のエコシステム形成
サイバーセキュリティ人材の不足解消に向けた取り組みが強化されます。
まとめ:新時代のサイバーセキュリティ対策
国家サイバー統括室の発足により、日本のサイバーセキュリティは新たな段階に入りました。しかし、国の防御体制強化と並行して、個人・企業レベルでの対策も不可欠です。
特に、アンチウイルスソフト
やVPN
などの基本的なセキュリティツールの導入は、今すぐにでも始められる重要な対策です。サイバー攻撃は「もしかしたら」ではなく「いつか必ず」起こるものと考え、準備を怠らないことが重要です。
2027年の全面運用開始まで約2年。この期間を有効活用し、官民一体となってサイバーセキュリティ体制を強化していきましょう。