財務幹部が狙われる理由とは
現役のCSIRTアナリストとして、最近特に目立つのが財務担当役員を狙った巧妙なサイバー攻撃です。2025年5月にTrellixが発表した最新レポートによると、世界中の銀行、投資企業、エネルギー公益事業者、保険会社で財務を担当する経営陣に対する高度なスピアフィッシング攻撃が確認されています。
なぜ財務幹部が狙われるのか?答えは簡単です。彼らは「お金に直結する権限」を持っているからです。
攻撃者の狙い
- 機密財務情報の窃取
- 不正送金の実行
- 内部情報を使った株価操作
- 競合他社への情報売却
- 身代金要求のための人質化
実際の被害事例から学ぶ
私がフォレンジック調査で実際に遭遇した事例をいくつか紹介します(企業名は伏せています)。
事例1:中小IT企業の経理部長が被害
「税務署からの重要な通知」という件名のメールが届きました。添付されたPDFファイルを開いた瞬間、リモートアクセスツールがインストールされ、攻撃者が約3週間にわたって社内システムに潜伏。結果として:
- 取引先の機密情報が流出
- 約800万円の不正送金被害
- 復旧まで2ヶ月間の業務停止
事例2:製造業の財務担当取締役が標的
「緊急:決算資料の修正について」という巧妙なメールが土曜日の夜に届きました。出社していた取締役が慌てて添付ファイルを開いたところ、攻撃者に以下の被害を与えられました:
- M&A関連の機密情報が競合他社に流出
- 株価に影響する未公開情報の悪用
- 顧客リストの大量流出
スピアフィッシングの最新手口
現在確認されている攻撃手法の特徴をまとめます:
1. 超高精度なターゲティング
攻撃者は事前に以下の情報を収集します:
- 対象企業の組織図
- 財務担当者の氏名・役職
- 普段使用しているメールの文体
- 取引先との関係性
- 決算時期や重要な会議の日程
2. 巧妙な偽装メール
- 税務署や金融庁など公的機関を装う
- 取引先の担当者名を詐称
- 緊急性を煽る件名(「至急」「重要」等)
- 実在する案件に関連付けた内容
3. 検知回避技術
- 従来のアンチウイルスソフト
では検知困難な手法
- 正規のクラウドサービスを悪用
- 段階的にマルウェアを展開
- 長期間の潜伏による発覚遅延
今すぐできる対策
技術的対策
1. 多層防御の構築
単一のアンチウイルスソフト
に頼るのは危険です。以下の組み合わせが効果的:
- エンドポイント保護
- メールセキュリティ強化
- ネットワーク監視
- 行動分析ツール
2. ゼロトラスト原則の採用
- すべてのアクセスを検証
- 最小権限の原則
- 定期的なアクセス権見直し
- 多要素認証の徹底
3. VPN の活用
特に財務担当者が外部からアクセスする場合、VPN
は必須です:
- 通信の暗号化
- IPアドレスの匿名化
- 地理的制限の回避
- 公衆WiFiでの安全な接続
組織的対策
1. 財務担当者向け特別教育
- 月1回の模擬攻撃訓練
- 最新の攻撃手法に関する情報共有
- 疑わしいメールの報告手順整備
- 緊急時の対応フロー確立
2. 承認プロセスの見直し
- 高額送金の複数承認制
- 電話での本人確認
- 時間外の金融取引制限
- 異常な取引パターンの自動検知
被害を受けた場合の対応
もし攻撃を受けた疑いがある場合、以下の手順で対応してください:
初期対応(最初の30分)
- 感染端末のネットワーク切断
- 管理者・上司への即座の報告
- 関連するアカウントのパスワード変更
- 銀行口座の監視強化
本格対応(24時間以内)
- フォレンジック調査の開始
- 影響範囲の特定
- 関係機関への届出
- 顧客・取引先への連絡
まとめ
財務幹部を狙ったスピアフィッシング攻撃は、今後さらに巧妙化することが予想されます。技術的な対策だけでなく、組織全体でのセキュリティ意識向上が不可欠です。
特に中小企業では、限られたリソースの中で効果的な対策を講じる必要があります。まずは基本的なアンチウイルスソフト
とVPN
の導入から始めて、段階的にセキュリティレベルを向上させていくことをお勧めします。
「うちは小さな会社だから狙われない」という考えは危険です。むしろ、セキュリティ対策が手薄な中小企業の方が狙われやすいのが現実です。
今すぐできることから始めて、大切な会社と従業員を守りましょう。