2025年7月、滋賀県立図書館のホームページが不正アクセスにより改ざんされ、約2ヶ月間にわたってサービス停止に追い込まれた事件が話題になりました。この事件は、公的機関だけでなく、個人や中小企業にとっても他人事ではない重要な教訓を含んでいます。
現役のフォレンジックアナリストとして、これまで数多くのサイバー攻撃事案を調査してきた経験から、この事件の詳細分析と、皆さんが実践できる具体的な対策についてお話しします。
事件の概要:2ヶ月間のサービス停止に至った経緯
まず、今回の事件がどのように発覚し、どの程度の被害だったのかを整理してみましょう。
発覚のきっかけと初動対応
2025年5月27日(火)午前、利用者からの指摘により県立図書館のホームページに改ざんが発見されました。滋賀県教育委員会は迅速に対応し、該当箇所を削除後、13時には全ページを閉鎖。この判断は適切でしたが、結果として7月2日まで約2ヶ月間のサービス停止となりました。
閉鎖期間中は、蔵書検索や貸出予約などのオンライン機能が使用できず、電話による臨時対応が続けられていたそうです。利用者の不便さはもちろん、運営側の負担も相当なものだったでしょう。
攻撃の詳細分析
保守業者の調査により、改ざんは以下の3回にわたって発生していたことが判明しました:
- 2025年2月28日
- 2025年4月3日
- 2025年5月26日
注目すべきは、最初の攻撃から発覚まで約3ヶ月も気づかれなかった点です。これは多くの組織で見られる課題で、継続的な監視体制の重要性を物語っています。
ブルートフォース攻撃の脅威と実態
今回の攻撃手法は「ブルートフォース攻撃」でした。これは、ID・パスワードの組み合わせを機械的に総当たりで試行する攻撃手法です。
実際の現場で見るブルートフォース攻撃の恐ろしさ
私がこれまで調査した事例では、以下のようなケースが頻発しています:
ケース1:小規模な製造業での被害
従業員50名程度の製造業で、管理者が「admin」「password123」という推測しやすいパスワードを設定していたため、わずか数時間でシステムに侵入されました。幸い個人情報の漏えいはありませんでしたが、製品データが改ざんされ、1週間の操業停止に追い込まれました。
ケース2:個人事業主のECサイト被害
オンラインショップを運営する個人事業主が、WordPressの管理画面に「店舗名」「生年月日」をパスワードに設定。攻撃者はSNSから情報を収集し、短時間でアカウントを乗っ取られました。顧客情報が暗号化されていたため大きな被害は免れましたが、サイト復旧に1ヶ月を要しました。
なぜブルートフォース攻撃が成功するのか
滋賀県の事例では、海外のサーバを経由した攻撃が確認されており、以下の要因が重なったと推定されます:
- ホームページ管理ソフトの更新プログラム未適用
- 推測されやすいパスワードの使用
- ログイン試行回数の制限なし
- 継続的な監視体制の不備
個人・中小企業が今すぐ実践すべき5つの対策
今回の事件から学べる教訓をもとに、実践的な対策をご紹介します。
1. 強固なパスワード管理の徹底
パスワードは最低12文字以上で、英数字と記号を組み合わせましょう。「P@ssw0rd2025!」のような形式がおすすめです。また、サービスごとに異なるパスワードを設定することが重要です。
2. 多要素認証(MFA)の導入
パスワードに加えて、SMSやアプリによる認証を追加することで、仮にパスワードが漏れても不正ログインを防げます。GoogleやMicrosoftのサービスなら無料で利用可能です。
3. 定期的なソフトウェア更新
今回の事件でも、最新の更新プログラム未適用が原因の一つでした。WordPress、CMS、セキュリティソフトなど、すべてのソフトウェアを常に最新状態に保ちましょう。
4. 包括的なセキュリティソフトの導入
信頼性の高いアンチウイルスソフト
は、リアルタイムでの脅威検出、不正アクセスの監視、定期的なシステムスキャンなど、多層防御を提供します。特に中小企業では、IT専門者がいない場合が多いため、自動化された保護機能は必須です。
5. VPNによる通信の暗号化
リモートワークやカフェでの作業時には、VPN
の使用を強く推奨します。公衆Wi-Fiでの作業は、通信内容を盗聴される可能性があり、パスワードやログイン情報が漏れるリスクがあります。
被害を最小限に抑えるための事前準備
バックアップの重要性
攻撃を受けた場合の復旧時間を短縮するため、定期的なデータバックアップは欠かせません。クラウドサービスを活用し、複数の場所にバックアップを保存することをおすすめします。
インシデント対応計画の策定
攻撃を受けた際の連絡先、対応手順、復旧プロセスを事前に文書化しておきましょう。混乱状態では適切な判断が困難になるため、冷静な時に準備しておくことが重要です。
まとめ:サイバーセキュリティは「転ばぬ先の杖」
滋賀県立図書館の事例は、どんな組織でも標的になり得ることを示しています。攻撃者は24時間365日、脆弱性を探し続けており、「うちは狙われない」という油断は禁物です。
特に個人事業主や中小企業では、限られたリソースの中で効率的にセキュリティ対策を実施する必要があります。今回ご紹介した対策は、どれも比較的簡単に導入でき、大きな効果が期待できるものばかりです。
「備えあれば憂いなし」という言葉通り、今日からでも始められる対策から実践してみてください。あなたの大切なデータと事業を守るために、セキュリティ投資は決して無駄になりません。