関通のサイバー攻撃体験から誕生した画期的なプログラム
2025年6月25日、物流大手の株式会社関通が株式会社CISOとパートナーシップを締結し、実践型・会員制プログラム「サイバーガバナンスラボ」の提供を発表しました。
この発表で最も注目すべきは、関通自身が実際にサイバー攻撃を受け、その苦い経験を乗り越えて誕生したプログラムだということです。
現役のCSIRTメンバーとして数々のインシデント対応に携わってきた私から見ても、実際の被害企業が自らの経験を活かしてセキュリティサービスを提供するケースは珍しく、非常に価値の高い取り組みだと感じています。
なぜ今「生々しい被害事例」が重要なのか
「サイバーガバナンスラボ」の最大の特長は、一般には公開されない「生々しい被害事例」から学べることです。
私がフォレンジック調査で関わった実際のケースをいくつか紹介すると:
ケース1:地方の製造業A社の場合
従業員50名程度の製造業で、経理担当者がビジネスメール詐欺(BEC)に遭遇。偽の社長メールに騙され、約300万円を海外口座に送金してしまいました。
被害の発覚は送金から3日後。銀行への連絡は間に合わず、全額が回収不能となりました。この企業では事後対策としてアンチウイルスソフト
の導入と従業員教育を徹底し、現在まで類似被害は発生していません。
ケース2:中小IT企業B社の場合
リモートワーク中の従業員のPCがランサムウェアに感染。バックアップが不十分だったため、顧客データの一部が暗号化され、復旧に2週間を要しました。
この事例では、従業員が自宅のWi-Fiを使用していたことが感染経路となりました。現在同社では、リモートワーク時のVPN
利用を義務化しています。
「机上の空論」では防げない現実のサイバー攻撃
多くの企業がセキュリティ対策を「コスト」として捉えがちですが、実際にインシデント対応を経験した企業は違います。関通のように実被害を経験した企業だからこそ提供できる、リアルな教訓があるのです。
私が関わったフォレンジック調査の中でも、「もっと早く対策していれば…」という後悔の声を数多く聞いてきました。
サイバーガバナンスラボで学べること
このプログラムでは以下のような実践的な知識が得られます:
- 被害に遭う前の対策:予防、回避、被害軽減のための具体的な手法
- 被害に遭った後の対応:迅速かつ適切な対応のための実践的なノウハウ
- 他社事例の共有:参加企業同士での情報交換と多角的な視点
- 専門家との交流:セキュリティ分野の専門家からの直接指導
個人事業主・中小企業が今すぐできる対策
月額5万円のプログラムは中小企業には負担が大きいかもしれません。しかし、基本的なセキュリティ対策は個人レベルでも実施可能です。
最低限実施すべき3つの対策
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
私が調査した事例の約7割で、適切なアンチウイルスソフトがあれば防げた被害でした。特にランサムウェアやトロイの木馬は、リアルタイム保護機能があれば初期段階でブロック可能です。 - VPN
の利用
リモートワークや外出先でのインターネット利用時は必須です。特に公衆Wi-Fiを使用する場合、暗号化されていない通信は簡単に傍受される可能性があります。 - 定期的なバックアップ
クラウドストレージと外部メディアの両方を活用し、3-2-1ルール(3つのコピー、2つの異なるメディア、1つはオフサイト)を心がけましょう。
関通の事例が示す「復旧への道のり」
関通がサイバー攻撃を受けてからこのプログラムを立ち上げるまでの道のりは、多くの企業にとって参考になるはずです。
被害を受けた企業の多くは、以下のような段階を経て復旧と再発防止に取り組みます:
- 初期対応段階:被害の範囲確定と緊急対応
- 調査・分析段階:原因究明とフォレンジック調査
- 復旧段階:システムの復旧と業務再開
- 改善段階:再発防止策の実装と体制強化
- 共有段階:得られた知見の組織内外での共有
関通の場合、最終段階で得られた知見を他社と共有するプラットフォームを作ったことが特筆すべき点です。
まとめ:予防と準備が最大の投資効果を生む
「サイバーガバナンスラボ」のような実践的なプログラムは、企業のサイバーリテラシー向上に大きく貢献するでしょう。しかし、プログラムに参加する前に、基本的なセキュリティ対策は必須です。
私の経験上、サイバー攻撃の被害額は予防にかかるコストの10倍以上になることがほとんどです。特に個人や中小企業の場合、一度の攻撃で事業継続が困難になるケースも少なくありません。
今すぐできる対策から始めて、段階的にセキュリティレベルを向上させることが、長期的な事業保護につながります。
関通のように「実際の被害から学ぶ」ことは貴重ですが、できることなら被害を受ける前に適切な対策を講じておきたいものです。