奈良市職員の内部不正アクセス事件から学ぶ組織のセキュリティ対策【2年間31回の不正閲覧】

2024年6月30日、奈良市が発表した職員の懲戒処分は、多くの組織にとって他人事ではない深刻な問題を浮き彫りにしました。道路維持課の職員が2年間にわたり、計31回もの内部不正アクセスを行っていたという事実は、組織の情報セキュリティ対策の重要性を改めて認識させるものです。

事件の概要:2年間で31回の不正アクセス

今回の事件では、道路維持課の主務技術職員(35歳)が、2022年5月17日から2024年4月4日までの約2年間にわたり、業務用端末を使用して人事課などの職員になりすまし、人事データやメールのやり取りを不正に閲覧していました。

この職員は地方公務員法第29条第1項第1号及び第3号に基づき、停職2月の懲戒処分を受けましたが、組織にとってのダメージは計り知れません。

内部不正アクセスの深刻さ

フォレンジックアナリストとして数多くの事案を調査してきた経験から言えることは、内部不正アクセスは外部からの攻撃よりも発見が困難で、被害が長期化しやすいという特徴があります。

今回の事件でも、2年間という長期間にわたって不正アクセスが継続されており、発見の難しさを物語っています。正規の権限を持つ職員が業務用端末を使用しているため、システムログを詳細に分析しなければ発見できないのが現実です。

なりすまし攻撃の手口と影響

今回の事件では「人事課などの職員になりすまし」という手口が使われました。これは一般的に「内部なりすまし」と呼ばれる手法で、以下のような特徴があります:

  • 正規の業務用端末を使用するため、外部からの攻撃として検知されない
  • 他部署の職員の権限を不正に使用する
  • 人事データなどの機密情報にアクセスする
  • 長期間にわたって継続される可能性が高い

このような内部不正アクセスによって、組織は以下のようなリスクに晒されます:

  • 個人情報の漏洩
  • 組織の信頼性失墜
  • 法的責任の発生
  • 業務継続への影響

組織が実施すべき内部脅威対策

現役CSIRTの立場から、組織が実施すべき内部脅威対策をご紹介します。これらの対策は、今回のような事件を防ぐために不可欠です。

1. アクセス制御の強化

最小権限の原則を徹底し、職員には業務に必要最小限のアクセス権限のみを付与することが重要です。特に人事データなどの機密情報については、厳格なアクセス制御が必要です。

2. ログ監視システムの導入

システムへのアクセスログを詳細に記録し、異常なアクセスパターンを検知できる監視システムの導入が急務です。今回の事件のように、正規の権限を持つ職員による不正アクセスを発見するためには、行動分析型の監視システムが有効です。

3. 定期的なセキュリティ教育

職員に対するセキュリティ教育を定期的に実施し、内部不正のリスクと影響について啓発することが重要です。また、不正行為を発見した場合の報告体制も整備する必要があります。

4. 多要素認証の導入

なりすましアクセスを防ぐため、多要素認証の導入を検討しましょう。パスワードだけでなく、生体認証やトークンなどの複数の認証要素を組み合わせることで、不正アクセスのリスクを大幅に軽減できます。

個人・中小企業でも起こりうる内部不正

「自治体の事件だから自分たちには関係ない」と考えるのは危険です。実際に、私が調査した事例では、以下のような内部不正が発生しています:

事例1:中小企業での顧客データ不正アクセス

従業員数30名程度の中小企業で、営業担当者が退職前に顧客データベースに不正アクセスし、競合他社への転職に備えて顧客情報を持ち出した事例がありました。この事件では、顧客からの信頼を失い、損害賠償請求に発展しました。

事例2:個人事業主のクラウドサービス不正利用

個人事業主が利用していたクラウドサービスで、従業員が業務用アカウントを使用して個人的な目的でサービスを利用し、機密情報にアクセスしていた事例もあります。

今すぐできる対策

組織の規模に関わらず、以下の対策は今すぐにでも実施できます:

1. パスワード管理の徹底

強固なパスワードポリシーを策定し、定期的なパスワード変更を義務付けましょう。また、パスワード管理ツールの導入も検討してください。

2. アクセス権限の見直し

現在のアクセス権限設定を見直し、不要な権限は即座に削除しましょう。特に、退職者や異動者の権限削除は確実に実施してください。

3. セキュリティソフトの導入

業務用端末には必ずアンチウイルスソフト 0を導入し、最新の脅威に対応できる環境を整えましょう。また、リモートワークを行う場合は、VPN 0の利用も検討してください。

4. Webサイトの脆弱性診断

自社のWebサイトやWebアプリケーションに脆弱性がないか、定期的にWebサイト脆弱性診断サービス 0を利用してチェックすることも重要です。

内部不正を防ぐための組織体制

技術的な対策だけでなく、組織体制の整備も不可欠です。以下のような体制を構築することをお勧めします:

1. セキュリティ責任者の設置

組織内にセキュリティ責任者を設置し、情報セキュリティに関する統括的な責任を明確にしましょう。

2. 内部監査の実施

定期的な内部監査を実施し、セキュリティポリシーの遵守状況を確認することが重要です。

3. インシデント対応手順の策定

内部不正が発生した場合の対応手順を事前に策定し、迅速な対応ができる体制を整えましょう。

まとめ:予防が最善の対策

今回の奈良市職員による内部不正アクセス事件は、どの組織にも起こりうる問題です。2年間で31回もの不正アクセスが発覚したということは、発見が困難な内部脅威の特徴を如実に表しています。

重要なのは、事件が発生してから対策を講じるのではなく、事前に予防策を講じることです。技術的な対策と組織的な対策を組み合わせることで、内部不正のリスクを大幅に軽減できます。

特に、アンチウイルスソフト 0の導入、VPN 0の活用、Webサイト脆弱性診断サービス 0の実施など、基本的なセキュリティ対策を確実に実施することが、組織を守る第一歩となります。

情報セキュリティは一度の投資で完了するものではなく、継続的な取り組みが必要です。今回の事件を教訓として、自組織のセキュリティ対策を見直し、改善に取り組んでいきましょう。

一次情報または関連リンク

奈良市職員懲戒処分について – ScanNetSecurity

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