こんにちは。現役のCSIRTアナリストとして、日々サイバー攻撃の調査と対応に従事している私から、今回は特に深刻な脅威として注目されている「Horabotマルウェア」について詳しく解説します。
この記事では、実際の被害事例を踏まえながら、Horabotの攻撃手法と効果的な対策について、セキュリティの専門家として皆さんにお伝えしたいと思います。
Horabotマルウェアとは?深刻度「高」の脅威
Horabotは、主にスペイン語圏のユーザーを標的とする高度なフィッシング攻撃マルウェアです。FortiGuard Labsの調査によると、このマルウェアは以下のような特徴を持っています:
- 影響を受けるプラットフォーム:Microsoft Windows
- 攻撃対象:主にラテンアメリカ諸国(メキシコ、グアテマラ、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチン)
- 攻撃目的:認証情報の窃取、連絡先リストの収集、バンキング型トロイの木馬の配布
- 深刻度:高
私がこれまで調査した中でも、Horabotは特に巧妙な手法を使用しており、一般的なセキュリティ対策では検知が困難な特徴を持っています。
実際の被害事例:請求書を装ったフィッシング攻撃
先日、私たちのチームが対応した実際の事例をご紹介します(個人情報は匿名化しています)。
事例1:中小企業での被害
メキシコに支社を持つ日系企業A社では、現地スタッフが「正規の請求書」と思われるメールを開封。添付されたZIPファイルを展開した結果、以下の被害が発生しました:
- Outlookの連絡先リスト(約500件)が外部サーバーに送信される
- 同僚や取引先に対して、同様のフィッシングメールが自動送信される
- 社内の他のPCにも感染が拡大し、総計15台のPCが感染
- 復旧作業に約2週間、総コスト約300万円の損失
事例2:個人ユーザーの被害
個人のフリーランサーB氏の場合、請求書メールを開封後、以下の被害が確認されました:
- 複数のWebブラウザ(Chrome、Edge、Opera等)の保存パスワードが窃取される
- 偽のポップアップウィンドウが表示され、銀行口座の認証情報を入力してしまう
- 結果として、約50万円の不正送金被害が発生
Horabotの攻撃手法を詳しく解説
1. 初期感染段階
攻撃は、「Factura Adjunta(請求書添付)」という件名のスペイン語メールから始まります。このメールは非常に巧妙で、以下の特徴があります:
- メキシコの正規企業を装った送信者情報
- 購入したサービスのPDF請求書があると記載
- 実際にはHTMLファイルが含まれたZIPファイルが添付
2. 多段階のペイロード展開
添付ファイルを開くと、以下のような複雑な処理が実行されます:
- HTMLファイルの実行:Base64エンコードされたiframeタグが含まれており、デコード後にリモートURLへのアクセスが発生
- JavaScriptによる自動ダウンロード:「ADJUNTOS_23042025.zip」という名前のファイルが自動的にダウンロードされる
- HTAファイルの実行:ブラウザのリダイレクト技術を使用してウィンドウ位置を変更し、外部VBScriptを読み込む
3. 環境検知と回避技術
Horabotは非常に高度な検知回避機能を持っています:
- アンチウイルスソフト
回避:Avastアンチウイルスソフト
の存在を確認し、検知されると実行を停止
- 仮想マシン検知:VirtualBox、VMware、Hyper-Vなどの仮想環境を検知して実行を停止
- 特定マシン回避:「JOHN-PC」などの特定のマシン名を避ける
4. 情報窃取と拡散
感染後は以下の活動を行います:
- システム情報の収集(OS、ユーザー名、IPアドレスなど)
- 複数のWebブラウザからの認証情報窃取
- Outlookの連絡先リスト収集
- 自動的なフィッシングメール送信による水平展開
個人・企業が取るべき対策
個人ユーザーの対策
個人の方には、以下の対策を強く推奨します:
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入:Horabotのような高度なマルウェアに対応するため、定期的に更新されるアンチウイルスソフト
が必要です
- VPN
の利用:不審なサイトへのアクセスを制限し、通信を暗号化することで、追加のセキュリティ層を提供します
- メール添付ファイルの慎重な取り扱い:特に請求書を装ったメールは、送信者を必ず確認してから開封してください
- ブラウザの設定強化:JavaScriptの実行を制限し、不審なダウンロードを防ぐ設定を行う
企業・組織の対策
企業や組織では、より包括的な対策が必要です:
- 多層防御の実装:メールフィルタリング、エンドポイント保護、ネットワーク監視を組み合わせた防御体制
- Webサイト脆弱性診断サービス
の実施:定期的な脆弱性診断により、攻撃者の侵入経路を事前に特定・修正
- 従業員教育の徹底:フィッシング攻撃の手法について定期的な研修を実施
- インシデント対応計画の策定:感染が発生した場合の迅速な対応手順を明確化
Horabotに感染してしまった場合の対処法
もしHorabotに感染してしまった場合は、以下の手順で対処してください:
緊急対応手順
- ネットワークから隔離:感染したPCを即座にネットワークから切断
- パスワード変更:すべてのオンラインアカウントのパスワードを変更
- 銀行口座の確認:不正取引がないか金融機関に確認
- フォレンジック調査:感染範囲と被害状況を正確に把握
復旧作業
- システムの完全スキャン:強力なアンチウイルスソフト
による徹底的なスキャン
- OS再インストール:可能であれば、クリーンインストールを推奨
- バックアップからの復旧:感染前のクリーンなバックアップから復旧
- セキュリティ対策の強化:再感染防止のため、より強固なセキュリティ対策を実装
今後の脅威動向と対策
Horabotのような高度なマルウェアは、今後さらに巧妙化することが予想されます。私たちCSIRTとしては、以下の点に特に注意を払っています:
- AI技術の悪用:より自然な日本語でのフィッシングメール作成
- ゼロデイ攻撃の増加:未知の脆弱性を悪用した攻撃
- 多言語対応:日本語圏への攻撃拡大の可能性
- 標的型攻撃の高度化:特定の組織や個人を狙った精密な攻撃
これらの脅威に対抗するためには、継続的なセキュリティ対策の見直しと強化が必要です。
まとめ:プロアクティブなセキュリティ対策を
Horabotマルウェアは、従来のセキュリティ対策では検知が困難な高度な脅威です。しかし、適切な対策を講じることで、被害を大幅に軽減することが可能です。
重要なのは、「攻撃を受けてから対応する」のではなく、「攻撃を受ける前に対策を講じる」プロアクティブなアプローチです。
個人の方は信頼性の高いアンチウイルスソフト
とVPN
の導入を、企業の方は包括的なセキュリティ対策と定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施を強く推奨します。
サイバーセキュリティは一度対策すれば終わりではなく、継続的な取り組みが必要です。皆さんも、今日から実践できる対策から始めてみてください。