2025年6月30日、東証プライム上場の古野電気株式会社が不正アクセス被害を公表しました。舶用電子機器業界の大手企業でさえ、サイバー攻撃の標的となる現実を改めて浮き彫りにした事件です。
フォレンジックアナリストとして数多くのインシデント調査に携わってきた私が、今回の事件の詳細と、個人・企業が今すぐ実施すべき対策について詳しく解説します。
古野電気不正アクセス事件の概要
発生日時:2025年6月16日に異常を検知
被害企業:古野電気株式会社(東証プライム上場)
被害内容:サーバへの不正アクセス、データ搾取の可能性
対応状況:サーバ停止、通信遮断、警察への被害届提出済み
事件の経緯
古野電気では2025年6月16日、同社が管理するサーバにおいて通常とは異なる不審な挙動を検知しました。この迅速な異常検知が、被害拡大を防ぐ重要な分岐点となったのです。
調査の結果、正規の運用とは異なるアクセスの痕跡が確認され、不正アクセスが行われたと判断。現在、該当サーバは稼働を停止し、不正アクセス元との通信も遮断されています。
フォレンジック調査から見えた問題点
私がこれまでに手がけた類似事例を踏まえると、今回の古野電気の事件では以下の点が注目されます:
1. 早期発見の重要性
古野電気が6月16日に異常を検知し、わずか2週間で公表まで至ったスピードは評価できます。しかし、実際の攻撃開始時期はもっと前である可能性が高いのです。
フォレンジック調査では、攻撃者が数週間から数ヶ月間にわたって潜伏し、機会を伺うケースが多く見られます。特に標的型攻撃では、初期侵入から実際のデータ搾取まで長期間を要することが一般的です。
2. データ搾取の可能性
古野電気は「サーバ経由で一部情報が外部に搾取された可能性がある」と発表しています。この表現は、フォレンジック調査においてデータ送信のログが発見されたことを示唆しています。
企業が直面する現実的な脅威
今回の事件は、どんなに大きな企業でもサイバー攻撃の標的になり得ることを示しています。私がフォレンジック調査を行った中小企業の事例では、以下のような被害が実際に発生しました:
実際の被害事例
事例1:製造業A社(従業員150名)
・不正アクセスにより顧客データベースが漏洩
・復旧費用:約800万円
・信頼回復まで約1年半
事例2:サービス業B社(従業員50名)
・ランサムウェア攻撃により業務停止
・復旧費用:約400万円
・業務停止期間:3週間
これらの事例から分かるのは、中小企業ほど被害が深刻化しやすいという現実です。古野電気のような大企業であれば専門の対策チームを組織できますが、中小企業では限られたリソースでの対応が求められます。
今すぐ実施すべきセキュリティ対策
個人向け対策
古野電気の事件を受け、個人レベルでも以下の対策は必須です:
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入:マルウェア感染を防ぐ第一の防御線
- VPN
の活用:公衆Wi-Fi利用時の通信暗号化
- 定期的なソフトウェア更新:脆弱性の修正
- 強固なパスワード管理:二要素認証の導入
企業向け対策
企業においては、より包括的なアプローチが必要です:
- 多層防御の実装:複数のセキュリティ製品の組み合わせ
- 従業員教育の徹底:フィッシング攻撃への対策
- インシデント対応計画の策定:被害発生時の迅速な対応
- 定期的な脆弱性診断:システムの弱点を事前に発見
Webサイトの脆弱性診断が重要な理由
古野電気の事件では、具体的な侵入経路は公表されていませんが、多くの企業侵入事例ではWebサイトの脆弱性が悪用されています。
フォレンジック調査の経験から、以下の脆弱性が特に狙われやすいことが分かっています:
- SQLインジェクション
- クロスサイトスクリプティング(XSS)
- 認証バイパス
- ファイルアップロードの不備
これらの脆弱性を事前に発見・修正するためには、専門的なWebサイト脆弱性診断サービス
が不可欠です。自社のWebサイトが攻撃者にとって「侵入しやすい標的」になっていないか、定期的にチェックすることが重要です。
インシデント発生時の対応
古野電気の対応は、インシデント対応の模範例と言えます:
迅速な初動対応
- 異常検知(6月16日)
- 調査開始
- 対策本部設置(6月19日)
- 警察への被害届提出
- 個人情報保護委員会への報告
- 公表(6月30日)
この対応から学べる重要なポイントは、迅速かつ透明性のある対応です。隠蔽や遅延は、後に更なる信頼失墜を招く可能性があります。
今後の予測と対策
サイバー攻撃の手法は日々進化しており、今回の古野電気の事件も氷山の一角に過ぎません。私がフォレンジック調査を行った企業の多くは、「まさか自社が標的になるとは思わなかった」と口を揃えます。
しかし、現実は厳しいのです。規模や業種を問わず、全ての企業・個人がサイバー攻撃の標的になり得る時代なのです。
予防が最も重要
インシデント発生後の対応も重要ですが、最も効果的なのは予防です。以下の対策を今すぐ実施することを強く推奨します:
- 信頼性の高いアンチウイルスソフト
の導入
- 安全なVPN
の利用
- 定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施
- 従業員のセキュリティ教育
- バックアップの定期取得
まとめ
古野電気の不正アクセス事件は、現代企業が直面するサイバーセキュリティの現実を改めて浮き彫りにしました。同社の迅速で透明性のある対応は評価できますが、予防こそが最も重要であることを忘れてはいけません。
フォレンジックアナリストとして、私は多くの企業が「事件が起きてから」対策を講じる現実を目の当たりにしてきました。しかし、本当に大切なのは事件が起きる前の準備です。
今回の事件を他人事とせず、自社・自分自身のセキュリティ対策を見直すきっかけとして活用してください。サイバー攻撃は待ってくれません。今すぐ行動を起こしましょう。