韓国のボイスフィッシング被害、史上最悪の事態に
韓国警察庁が発表した衝撃的な数字に、サイバーセキュリティ業界が騒然としています。2025年上半期だけで、ボイスフィッシングによる被害額が6421億ウォンに達し、昨年1年間の被害額(6081億ウォン)を既に上回ってしまったのです。
このペースで行けば、年間被害額が史上初めて1兆ウォンを突破する可能性が高まっています。現役CSIRTメンバーとして、この数字の深刻さを改めて実感しています。
なぜボイスフィッシング被害は急増しているのか
フォレンジック調査の現場で見てきた実例から、ボイスフィッシングの手口が年々巧妙化していることが分かります。最近の傾向として以下のような特徴が挙げられます:
- AI音声技術の悪用:実在する金融機関職員の声を模倣
- 個人情報の精度向上:SNSやデータ漏洩から得た詳細な個人情報を使用
- 心理的圧迫の巧妙化:緊急性を演出し冷静な判断を阻害
- 技術的な偽装:発信者番号偽装や公式アプリの模倣
実際のボイスフィッシング事例から学ぶ被害パターン
私が関わったフォレンジック調査の中で、特に印象深い事例をいくつか紹介しましょう(個人情報は匿名化済み)。
事例1:中小企業経営者のケース
製造業を営む50代男性のケースです。「金融監督院」を名乗る者から「あなたの口座が不正利用されている。緊急に資金を安全な口座に移す必要がある」との連絡を受けました。
巧妙だったのは、実際に彼の会社名や取引銀行名を正確に知っていたことです。結果的に、運転資金として準備していた3000万円を失ってしまいました。
事例2:高齢者を狙った医療詐欺
70代女性が「保健所」を名乗る者から「コロナワクチンの副作用で医療費が還付される」という電話を受けたケースです。個人情報を聞き出された後、「手続きのため」として指定された口座に手数料を振り込むよう指示され、200万円の被害に遭いました。
事例3:投資詐欺の複合パターン
30代のIT企業勤務者が、SNSで知り合った「投資アドバイザー」から勧められた仮想通貨投資で500万円を失ったケースです。最初は小額の利益を見せて信用させ、徐々に投資額を増やさせる手法でした。
個人レベルでできる効果的な対策
1. 基本的な心構え
- 「急がせる電話」は99%詐欺:金融機関が電話で緊急の資金移動を求めることはありません
- 折り返し確認の徹底:必ず公式の連絡先に電話をかけ直して確認
- 個人情報は絶対に教えない:本物の金融機関なら既に情報を持っています
2. 技術的な対策
デバイスレベルでの防御も重要です。スマートフォンやPCにアンチウイルスソフト
を導入することで、詐欺サイトへのアクセスを事前にブロックできます。
また、オンラインバンキングを利用する際は、VPN
を使用することで通信を暗号化し、中間者攻撃のリスクを軽減できます。
3. 家族・職場での情報共有
詐欺の手口は日々進歩しています。定期的に家族や同僚と最新の詐欺情報を共有し、「うちは大丈夫」という油断を排除することが重要です。
企業が直面するサイバー詐欺のリスク
個人だけでなく、企業も深刻な被害に遭っています。私が調査した企業被害の事例では、以下のようなパターンが多く見られます:
CEO詐欺(ビジネスメール詐欺)
経営陣を装ったメールで経理担当者に送金を指示する手法です。ある中堅商社では、海外支社からの緊急送金依頼を装ったメールにより、8000万円の被害を受けました。
サプライチェーン攻撃
取引先を装った偽の請求書や変更通知により、振込先口座を詐欺師のものに変更させる手法です。建設業界では特にこの被害が多発しています。
企業のWebサイトが攻撃の踏み台にされるケースも増えているため、定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施が不可欠となっています。
被害に遭ってしまった場合の対処法
万が一被害に遭った場合、迅速な対応が被害拡大を防ぐ鍵となります。
即座に行うべき対応
- 金融機関への連絡:詐欺に遭ったことを即座に報告
- 警察への届け出:被害届の提出
- 証拠の保全:通話記録、メール、振込明細の保存
- 追加被害の防止:関連するアカウントのパスワード変更
フォレンジック調査の重要性
特に企業の場合、被害の全容把握と再発防止のため、専門的なフォレンジック調査が重要になります。調査により攻撃の手口や侵入経路を特定し、セキュリティホールを塞ぐことができます。
韓国警察の新たな取り組みと日本への影響
韓国警察庁が発表した「多重被害詐欺対応タスクフォース」の設立は、国際的なサイバー犯罪対策の強化を意味します。24時間365日体制の対応センター設置も、被害防止に大きく貢献するでしょう。
しかし、サイバー犯罪は国境を越えて行われるため、日本でも同様の被害拡大が懸念されます。韓国での被害急増は、日本にとっても警鐘となるべきです。
まとめ:予防こそ最大の防御
ボイスフィッシングを含むサイバー詐欺は、技術の進歩とともにますます巧妙化しています。しかし、基本的な対策を徹底することで、多くの被害は防ぐことができます。
- 「急がせる」「秘密にしろ」という電話は詐欺
- 必ず公式ルートでの確認を行う
- 技術的な防御手段を活用する
- 最新の詐欺手口情報を常にアップデートする
個人レベルではアンチウイルスソフト
やVPN
の活用、企業レベルではWebサイト脆弱性診断サービス
の実施が効果的です。
「自分は大丈夫」という過信が最も危険です。韓国の事例を他山の石として、今一度自身のセキュリティ対策を見直してみてください。