こんにちは。現役CSIRTアナリストの視点から、最近急増しているフィッシング詐欺について警鐘を鳴らしたいと思います。
韓国の統計によると、従来のボイスフィッシング(振り込め詐欺)から派生した新たなフィッシング犯罪の被害額が、なんと強盗・窃盗被害の3.4倍にも達しているという衝撃的なデータが明らかになりました。しかも、被害回復率はわずか3%という絶望的な数字です。
フォレンジック調査の現場で様々な被害ケースを見てきた私が、現在猛威を振るっている「5大フィッシング犯罪」の手口と、個人・企業が今すぐできる効果的な対策をお伝えします。
急増する5大フィッシング犯罪の実態
現在、セキュリティ業界で問題視されている5つの主要なフィッシング手口があります:
1. 投資リーディング詐欺
有名な投資専門家を装い、偽の収益証明書を提示して投資金を騙し取る手法です。実際の被害事例では、AI技術を使った音声合成で実在の専門家の声を再現し、被害者を信用させるケースも増えています。
2. ロマンス詐欺(恋愛詐欺)
SNSやマッチングアプリで接触し、長期間にわたって信頼関係を築いてから金銭を要求する手法。「家族の治療費」「緊急事態」などの名目で数百万円単位の被害が発生しています。
3. スミッシング(SMS詐欺)
宅配業者や公的機関を装ったSMSで悪意のあるアプリのインストールを促し、個人情報や銀行口座情報を盗み取る手法です。
4. 詐称ノーショー(偽予約詐欺)
飲食店に虚偽の予約を入れ、「ワインを事前購入したい」などと言って代金を振り込ませた後、連絡を絶つ手法。中小企業の飲食店が主な標的となっています。
5. 従来のボイスフィッシング
電話で金融機関職員などを装い、口座情報を聞き出したり送金を指示する古典的な手法。しかし、手口は年々巧妙化しています。
フォレンジック調査で見えた被害の深刻さ
私がこれまで担当したフォレンジック調査案件で印象に残っているのが、ある中小企業の社長が投資リーディング詐欺に遭ったケースです。
被害者は退職金2000万円を「月利20%保証」という甘い言葉に誘われて投資。最初の2ヶ月は約束通り配当が振り込まれたため、追加で1500万円を投資しました。しかし、3ヶ月目から連絡が取れなくなり、気づいた時には投資先の会社は雲隠れ。
デジタル・フォレンジック調査を行ったところ、犯罪グループは海外のサーバーを経由し、暗号化通信を使って痕跡を隠蔽していました。最終的に資金の回収はできませんでした。
個人ができる効果的なセキュリティ対策
1. 包括的なセキュリティソフトの導入
フィッシングサイトのブロック機能を持つアンチウイルスソフトは必須です。特に、リアルタイム保護機能とWebプロテクション機能が重要になります。
2. 通信の暗号化
公共Wi-Fiを使用する際は、必ずVPNを使用して通信を暗号化しましょう。フィッシング攻撃者は公共Wi-Fiを悪用することが多いためです。
3. 多段階認証の設定
銀行口座、SNS、メールアカウントなど重要なサービスには必ず多段階認証を設定してください。これにより、仮にパスワードが盗まれても不正アクセスを防げます。
4. 定期的なセキュリティ教育
家族全員でフィッシング手口について学び、「怪しいと思ったら一旦止まる」習慣をつけることが大切です。
企業に求められるセキュリティ対策
中小企業の経営者の方には、特に以下の対策をお勧めします:
1. Webサイトの脆弱性対策
自社のWebサイトが攻撃の踏み台にされないよう、定期的なWebサイト脆弱性診断サービスの利用が重要です。フィッシングサイトへの誘導に悪用されるケースが増えています。
2. 従業員教育の徹底
ビジネスメール詐欺や標的型攻撃メールへの対策として、従業員全員に対するセキュリティ研修を定期的に実施しましょう。
3. インシデント対応体制の構築
万が一被害に遭った場合の連絡先や対応手順を事前に決めておくことで、被害を最小限に抑えることができます。
被害に遭ってしまった時の対処法
もし被害に遭ってしまった場合は、以下の手順で迅速に対応してください:
- 即座に警察に通報(被害届の提出)
- 銀行への連絡(口座凍結の依頼)
- 証拠の保全(メール、通話記録、画面キャプチャなど)
- 専門機関への相談(消費生活センター、弁護士など)
ただし、「被害回復が100%可能」と謳う法務事務所には注意が必要です。二次被害の可能性もあるため、信頼できる専門家に相談することが重要です。
まとめ:今すぐ始められるセキュリティ対策
フィッシング詐欺の手口は日々巧妙化しており、「自分は大丈夫」という思い込みが最も危険です。現役CSIRTの立場から言えることは、技術的な対策と意識の両方を高めることが不可欠だということです。
特に以下の3点は今すぐ実践してください:
- 信頼性の高いアンチウイルスソフトの導入
- 外出先でのインターネット利用時のVPN使用
- 企業サイト運営者はWebサイト脆弱性診断サービスでの定期チェック
セキュリティは「投資」ではなく「保険」だと考えてください。被害に遭ってからでは遅いのです。