韓国政府、ついにフィッシング犯罪との「戦争」を宣言
韓国政府が、ついにフィッシング犯罪との本格的な戦いに乗り出しました。これは単なる政策強化ではありません。大統領室国政状況室がコントロールタワーとなり、金融委員会と警察が総力を挙げてフィッシング犯罪の根絶を目指すという、文字通りの「戦争宣言」なのです。
国内でボイスフィッシング被害が公式報告されてから19年1ヶ月。これまでの対応策では限界があると判断した韓国政府の危機感の表れと言えるでしょう。
なぜ今、政府が本腰を入れるのか
フォレンジック調査の現場で私が目にしてきた事例を振り返ると、フィッシング詐欺の手口は年々巧妙化しています。特に最近では:
- AI音声技術を悪用した、家族の声を模倣した詐欺電話
- 銀行の公式サイトと見分けがつかないレベルの偽サイト
- 正規の金融機関を装ったスミッシング(SMS詐欺)
これらの手口は、従来の「怪しい日本語」や「明らかに偽物」といった特徴がほとんどありません。私たちCSIRTメンバーでさえ、一瞬判断に迷うレベルの精巧さです。
韓国の新対策:異常取引探知システム(FDS)とは
今回発表される対策の目玉は「異常取引探知システム(FDS)」の構築です。これは画期的なアプローチと言えます。
従来の対応の問題点
これまでのフィッシング対策は、残念ながら「事後対応」が中心でした:
- 被害者が騙されて送金
- 被害に気づいて通報
- 調査・捜査開始
- 犯人逮捕(運が良ければ)
しかし、この流れでは被害者の損失回復は困難です。実際、私が関わったフォレンジック調査でも、資金の大部分が海外に送金されてしまい、回収不可能なケースが多数ありました。
新システムの革新性
新しいFDSは「事前探知・先制遮断」がコンセプトです:
- リアルタイム情報共有:金融会社・通信会社・捜査機関が連携
- 異常兆候の早期発見:AIによる取引パターン分析
- 先制的被害遮断:送金前の段階で警告・停止
これは、サイバーセキュリティの世界でいう「予防型防御」の考え方です。攻撃を受けてから対応するのではなく、攻撃の兆候を事前に察知して防ぐというアプローチですね。
個人ができるフィッシング対策:現役CSIRTの視点から
政府の対策強化は心強いですが、私たち個人レベルでの防御も欠かせません。フォレンジック調査で見てきた被害事例から、効果的な対策をお伝えします。
1. 基本的な防御の徹底
まず基本から。これらは当たり前に思えますが、実際の被害者の多くが軽視していた点です:
- 不審な電話には応じない:金融機関が電話で暗証番号を聞くことは絶対にありません
- URLを直接確認:SMSのリンクではなく、公式サイトから直接アクセス
- 二要素認証の活用:可能な限り設定しておく
2. 技術的な防御策
個人レベルでできる技術的対策も重要です。特に:
アンチウイルスソフト
の導入は必須です。最新のアンチウイルスソフトは、フィッシングサイトの検出機能も向上しており、うっかりアクセスしてしまった場合でも警告してくれます。
また、VPN
の利用も効果的です。特に公共Wi-Fiを使用する際は、通信の暗号化により中間者攻撃のリスクを大幅に軽減できます。
実際の被害事例から学ぶ
先日私が調査した事例では、50代の会社員男性が「銀行のセキュリティ強化」を名目とした電話で、約200万円を騙し取られました。
犯人の手口は非常に巧妙で:
- 正確な個人情報(氏名、口座番号の一部)を把握
- 「不正アクセスを検知したので確認が必要」と告知
- 「セキュリティコード確認」という名目でワンタイムパスワードを聞き出し
- 即座に不正送金を実行
この男性は「銀行から来た電話だと思い込んでいた」と証言しています。情報の一部が正確だったことで、完全に信用してしまったのです。
企業が取るべき対策
個人だけでなく、企業も標的になっています。特に中小企業では、フィッシング攻撃により:
- 顧客情報の漏洩
- 取引先への不正送金
- Webサイトの改ざん
といった被害が増加しています。
企業の場合、Webサイト脆弱性診断サービス
の定期的な実施が重要です。攻撃者は企業サイトの脆弱性を狙ってフィッシングサイトを構築することも多く、早期発見・対策が被害防止の鍵となります。
韓国の取り組みから日本が学ぶべきこと
韓国政府の今回の対策は、日本にとっても参考になる点が多くあります:
1. 省庁横断的な連携
従来、フィッシング対策は各省庁がバラバラに対応していました。しかし韓国のように、大統領室(日本でいう官邸)がコントロールタワーとなることで、迅速で統一的な対応が可能になります。
2. 技術と法執行の融合
単なる取り締まり強化ではなく、AI技術を活用した予防システムの構築。これは「技術で犯罪を予防する」という新しいアプローチです。
3. 民間との連携強化
金融機関と通信会社、そして捜査機関のリアルタイム情報共有。この「官民一体」の取り組みが、従来の縦割り対応の限界を突破する鍵となるでしょう。
まとめ:私たちができること
韓国政府の本格的なフィッシング対策は、この問題の深刻さを物語っています。しかし、どんなに政府や企業が対策を強化しても、最終的に騙されるかどうかを決めるのは私たち一人ひとりです。
現役CSIRTとして、皆さんにお伝えしたいのは:
- 疑う習慣を身につける:「本当にこの電話は正規のものか?」
- 技術的防御を怠らない:アンチウイルスソフト
やVPN
の活用
- 情報共有を大切にする:怪しい手口は周囲と共有
韓国の取り組みが成功すれば、日本でも同様の対策が導入される可能性が高いでしょう。それまでの間、私たち自身の防御力を高めておくことが重要です。
フィッシング詐欺との戦いは、技術の進歩とともに続いていきます。しかし、正しい知識と適切な対策があれば、必ず防ぐことができます。皆さんも今日から、より一層の注意を心がけてください。