2025年7月、草津市コミュニティ事業団の公式ホームページが第三者による不正アクセスを受け、サイト改ざんの被害に遭いました。今回の事件は、地方自治体や中小規模組織を狙った典型的なWebサイト改ざん攻撃の事例として、多くの教訓を含んでいます。
現役CSIRTメンバーとして数多くのサイバー攻撃事案を対応してきた立場から、この事件の詳細な分析と、あなたの組織を同様の被害から守るための実践的な対策をお伝えします。
草津市コミュニティ事業団サイト改ざん事件の概要
今回被害を受けたのは以下の2つのWebサイトです:
- 草津市コミュニティ事業団公式サイト(https://www.kusatsu.or.jp/)
- 長寿の郷ロクハ荘サイト(https://www.rokuhasou.net/)
攻撃者は巧妙な手口で、訪問者を騙すための仕掛けを複数層にわたって設置していました。単純なページ書き換えではなく、より悪質な詐欺への誘導を目的とした組織的な攻撃だったことが判明しています。
発見された不正コードの詳細
フォレンジック調査により明らかになった攻撃の実態は以下の通りです:
- 偽警告メッセージの表示:「ウイルスに感染しました」といった偽の警告画面を表示
- フィッシング誘導:偽メッセージ内のボタンクリックにより、詐欺サイトへリダイレクト
- 電話詐欺への誘導:表示された偽の電話番号への連絡を促す内容
幸い、メッセージの表示のみではウイルス感染には至らないことが確認されており、現在は不正コードも完全に削除されています。
なぜ地方自治体・中小組織が標的になるのか
私がこれまで対応した事案を分析すると、地方自治体や中小規模組織が狙われる理由は明確です:
1. セキュリティ体制の脆弱性
多くの地方組織では、IT専門スタッフが限られており、Webサイトの運用・保守を外部委託しているケースが多いです。この委託先のセキュリティレベルがまちまちで、古いCMSや未更新のプラグインが放置されがちです。
2. 公的機関への信頼性を悪用
攻撃者は、一般市民が公的機関のWebサイトに対して持つ信頼感を逆手に取ります。「市役所のサイトだから安全」という先入観を利用し、偽警告への信憑性を高める狙いがあります。
3. 攻撃コストの低さ
大企業と比較して、中小組織のWebサイトは攻撃の成功率が高く、攻撃者にとって「コストパフォーマンス」の良いターゲットとなっています。
実際の被害事例:私が対応した類似ケース
昨年対応した某市の文化施設のケースでは、同様の手口でサイト改ざんが行われました:
- 初期侵入:WordPressの古いプラグインの脆弱性を突いた攻撃
- 潜伏期間:約2週間にわたり、管理者に気づかれることなく不正コードを仕込み
- 被害拡大:訪問者50名以上が偽警告を閲覧、うち3名が詐欺電話に連絡
この事例では、被害発覚から復旧まで1週間を要し、その間のサイト閉鎖により地域イベントの告知に大きな支障が生じました。
偽警告・フィッシング攻撃の最新手口
現在主流となっている攻撃手法をCSIRTの視点から解説します:
段階的な誘導戦略
- 第1段階:正規サイト内で偽警告を表示(信頼性の確保)
- 第2段階:「今すぐ対応が必要」といった緊急性の演出
- 第3段階:偽のサポート電話番号や詐欺サイトへの誘導
- 第4段階:個人情報や金銭の詐取
技術的な特徴
最近の攻撃では以下のような技術が使われています:
- JavaScriptインジェクション:動的な偽警告の生成
- User-Agent判定:検索エンジンのクローラーには正常な表示
- 地域判定:訪問者のIPアドレスから地域を特定し、地元の電話番号を表示
組織を守る実践的なセキュリティ対策
草津市の事例を踏まえ、同様の被害を防ぐための具体的な対策をご紹介します:
1. Webサイトの基盤セキュリティ強化
まず最優先で実施すべきは、Webサイト脆弱性診断サービス
による定期的な脆弱性チェックです。多くの組織が見落としがちな以下の項目を重点的に確認しましょう:
- CMSとプラグインの最新版への更新
- 管理者アカウントの権限見直し
- 不要なファイルやディレクトリの削除
- セキュリティヘッダーの実装
2. エンドポイント保護の徹底
Webサイト管理を行うPCには、必ず高性能なアンチウイルスソフト
を導入してください。特に以下の機能を重視して選択しましょう:
- リアルタイムスキャン機能
- Webフィルタリング機能
- マルウェア検知の精度
- 定期的なセキュリティ情報の更新
3. 通信経路の暗号化
外部からサイト管理を行う際は、VPN
の使用が必須です。特に以下の場面では絶対に使用してください:
- カフェやホテルなど公共Wi-Fiからの接続時
- 自宅からのリモート管理作業時
- 外出先でのサイト更新作業時
インシデント対応の実践的手順
万が一サイト改ざんが発生した場合の対応手順を、実際の事案対応経験をもとにお伝えします:
緊急対応(発見から1時間以内)
- サイトの緊急停止:被害拡大防止のため、すぐにサイトを非公開に
- 証拠保全:改ざんされたページのスクリーンショット取得
- 関係者への通報:警察(サイバー犯罪相談窓口)への届出
- 利用者への注意喚起:SNSや他の媒体での周知
詳細調査(1日~1週間)
- 侵入経路の特定:ログ解析による攻撃手法の調査
- 被害範囲の確定:影響を受けたファイルとデータの特定
- バックアップの確認:感染前の状態への復旧可能性を検証
復旧・再発防止(1週間~)
- システムの完全再構築:感染したシステムの完全削除と再構築
- セキュリティ対策の強化:脆弱性の修正と新たな防御策の実装
- 運用手順の見直し:再発防止のための業務プロセス改善
今後の展望と対策の重要性
サイバー攻撃の手口は日々巧妙化しており、特に地方自治体や中小企業を狙った攻撃は今後も増加が予想されます。重要なのは「うちは大丈夫」という根拠のない安心感を捨て、現実的な脅威として向き合うことです。
草津市コミュニティ事業団の事例は、どんな組織でも狙われる可能性があることを示しています。今回の教訓を活かし、あなたの組織でも今すぐセキュリティ対策の見直しを始めてください。
まとめ:今すぐ実行すべきアクション
この記事を読まれた方に、すぐに実行していただきたいアクションをまとめます:
- 現状把握:自組織のWebサイトの管理体制とセキュリティ状況を点検
- 脆弱性チェック:Webサイト脆弱性診断サービス
による診断の実施
- 基本対策の実装:アンチウイルスソフト
とVPN
の導入
- 緊急対応計画の策定:インシデント発生時の連絡体制と対応手順の整備
- 定期的な見直し:セキュリティ対策の定期的な点検と改善
サイバーセキュリティは「やったら終わり」ではなく、継続的な取り組みが必要です。しかし、適切な対策を講じることで、草津市のような被害は確実に防ぐことができます。
あなたの組織と利用者を守るため、今すぐ行動を開始してください。