アエロフロート航空を麻痺させたサイバー攻撃の衝撃
7月28日、ロシア最大の航空会社アエロフロート・ロシア航空が大規模なサイバー攻撃を受け、50便以上の欠航を余儀なくされました。このインシデントは、現代の航空業界が直面するサイバーセキュリティリスクの深刻さを浮き彫りにしています。
現役CSIRTメンバーとして数多くの航空関連企業のインシデント対応に携わってきた経験から、今回の攻撃手法と企業が取るべき対策について詳しく解説します。
攻撃グループ「サイレント・クロウ」の手口
犯行声明によると、攻撃者は1年をかけてアエロフロートのネットワークに潜伏し、以下の被害をもたらしたとされています:
- 7000台のサーバーを破壊
- 上級管理職を含む従業員のPCを掌握
- 過去の利用客全ての個人データを窃取
- 基幹システムの機能停止
このような長期間にわたる潜伏型攻撃は「APT(Advanced Persistent Threat)」と呼ばれ、企業にとって最も危険なサイバー攻撃の一つです。
航空業界が直面するサイバーセキュリティの現実
航空業界は特にサイバー攻撃の標的になりやすい理由があります:
1. 膨大な個人情報の保有
航空会社は乗客の氏名、連絡先、パスポート情報、クレジットカード情報など、極めて機密性の高いデータを大量に保管しています。これらの情報は闇市場で高値で取引されるため、攻撃者にとって魅力的なターゲットなのです。
2. システムの複雑性と相互依存性
予約システム、チェックインシステム、運航管理システム、貨物管理システムなど、複数のシステムが相互に連携しており、一つのシステムが攻撃されると連鎖的に被害が拡大します。
フォレンジック調査から見えてくる攻撃の全容
私が担当したある国内航空会社のインシデント対応では、攻撃者は以下の手順で侵入を図っていました:
初期侵入段階
- 従業員向けのフィッシングメールによる認証情報の窃取
- VPN接続を悪用した内部ネットワークへの侵入
- 権限昇格による管理者アカウントの乗っ取り
潜伏・拡散段階
- 正規のシステム管理ツールを悪用した横展開
- バックアップシステムへの感染拡大
- ログ削除による痕跡隠滅
この事例では、攻撃者が6ヶ月間もネットワーク内に潜伏していたことが判明しました。早期発見できていれば被害を大幅に軽減できたはずです。
企業が今すぐ実施すべきサイバーセキュリティ対策
1. 多層防御の構築
単一のセキュリティツールに依存するのではなく、複数の防御手段を組み合わせることが重要です。アンチウイルスソフト
のような高性能なアンチウイルスソフトは、未知のマルウェアを検出する機械学習機能を搭載しており、従来型の攻撃だけでなくゼロデイ攻撃にも対応できます。
2. リモートアクセスの強化
今回のアエロフロート攻撃でも、初期侵入経路としてVPN接続が悪用された可能性があります。企業のリモートワーク環境では、VPN
を活用することで、通信の暗号化と匿名化を実現し、攻撃者による通信傍受や位置情報の特定を防ぐことができます。
3. Webアプリケーションの脆弱性対策
多くの航空会社では、オンライン予約システムやカスタマーポータルが攻撃の入り口となっています。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、アプリケーションレベルの脆弱性を事前に発見し、攻撃者に悪用される前に修正することが可能です。
インシデント発生時の初動対応の重要性
サイバー攻撃を完全に防ぐことは困難ですが、被害を最小限に抑えるための準備は可能です。
インシデント対応チームの編成
- IT部門:システムの復旧と証拠保全
- 法務部門:法的対応と規制当局への報告
- 広報部門:顧客や株主への適切な情報開示
- 経営陣:意思決定と外部専門家の招集
フォレンジック調査の実施
攻撃の全容解明と再発防止のため、専門的なデジタルフォレンジック調査が不可欠です。証拠保全から始まり、攻撃経路の特定、被害の範囲確定、根本原因の分析まで、体系的に進める必要があります。
個人ユーザーができる自己防衛策
航空会社を利用する際に個人ができる対策も重要です:
公衆Wi-Fiでの予約は避ける
空港や駅の無料Wi-Fiは攻撃者が監視している可能性があります。航空券の予約や変更を行う際は、VPN
を使用して通信を暗号化することを強く推奨します。
定期的なパスワード変更
航空会社のマイレージプログラムやオンラインアカウントのパスワードは定期的に変更し、他のサービスとは異なる複雑なパスワードを設定しましょう。
不審なメールへの注意
航空会社を装ったフィッシングメールが増加しています。アンチウイルスソフト
のようなセキュリティソフトは、メール内の悪意あるリンクや添付ファイルを自動検出する機能を持っているため、個人レベルでの防御力向上に役立ちます。
まとめ:航空業界のサイバーセキュリティ強化は急務
今回のアエロフロート攻撃は、航空業界のサイバーセキュリティ対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。攻撃者の手法は年々高度化しており、従来の対策では不十分になっています。
企業は多層防御の構築、従業員教育の徹底、インシデント対応計画の策定を急ぐ必要があります。また、個人レベルでも適切なセキュリティツールの活用と、セキュリティ意識の向上が求められています。
サイバー攻撃は「起こるかもしれない」リスクではなく、「いつ起こってもおかしくない」現実的な脅威です。今こそ、包括的なサイバーセキュリティ対策の見直しと強化を図る時なのです。