急増するサイバー攻撃の実態
現役のフォレンジックアナリストとして、毎日のようにサイバー攻撃の被害報告を受けています。2024年から2025年にかけて、攻撃の巧妙化と被害規模の拡大は本当に深刻な状況です。
最近担当した案件では、従業員20名程度の製造業の会社が標的型攻撃を受け、設計図面や顧客情報が全て暗号化されてしまいました。身代金要求額は約5000万円。結局、バックアップから復旧できましたが、3週間の業務停止で損失は1億円を超えました。
こうした事例が決して他人事ではないことを、まず認識していただきたいと思います。
実際のフォレンジック調査で判明した攻撃手法
フィッシングメールからの侵入
調査で最も多いのが、フィッシングメールをきっかけとした侵入です。ある建設会社の事例では、取引先を装った請求書メールに添付されたファイルから、マルウェアが感染しました。
攻撃者は以下の手順で侵入していました:
- 取引先の実在する担当者名でメール送信
- 請求書のExcelファイルにマクロウイルスを仕込み
- マクロ実行でバックドアを設置
- 約2週間かけて社内ネットワークを調査
- 重要ファイルを特定後、一斉暗号化を実行
恐ろしいのは、感染から実際の被害まで2週間もの潜伏期間があったことです。この間、通常業務は何事もなく続いていました。
Webサイトの脆弱性を狙った攻撃
企業のWebサイトも格好の標的です。ある小売業者では、ECサイトのセキュリティホールから顧客のクレジットカード情報が流出。被害者は約8000人に及び、損害賠償や信用失墜による売上減少で、会社存続の危機に陥りました。
フォレンジック調査の結果、攻撃者は以下の脆弱性を悪用していました:
- 古いCMSの未パッチ状態
- SQLインジェクション攻撃への対策不備
- 管理画面のパスワードが初期設定のまま
個人も狙われる時代:在宅勤務の落とし穴
企業だけでなく、個人のセキュリティも重要です。在宅勤務が定着した今、個人のPCやネット環境が企業へのゲートウェイとなるケースが急増しています。
実際にあった事例では、従業員の自宅PCがマルウェアに感染し、VPN接続を通じて会社のサーバーまで侵入されました。アンチウイルスソフト
を導入していれば防げた可能性が高い攻撃でした。
また、公共Wi-Fiを使った際の通信傍受も深刻な問題です。営業担当者がカフェで顧客情報を扱っていたところ、通信を盗聴され、後日その情報を使った標的型攻撃を受けた企業もありました。VPN
を使用していれば、このような被害は防げたでしょう。
効果的なサイバーセキュリティ対策
多層防御の重要性
フォレンジック調査を通じて分かったのは、単一の対策では限界があるということです。効果的な防御には、複数の対策を組み合わせた「多層防御」が不可欠です。
エンドポイント対策
全ての端末にアンチウイルスソフト
を導入することは基本中の基本です。最新の脅威に対応できる製品を選ぶことが重要で、無料のソフトでは検知できない攻撃が増えています。
ネットワーク通信の保護
特に在宅勤務やモバイルワークでは、VPN
による通信暗号化が必須です。公共Wi-Fiはもちろん、自宅のネット回線でも盗聴のリスクはゼロではありません。
Webサイトの定期的な脆弱性チェック
企業のWebサイトやオンラインサービスには、Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することを強く推奨します。自社では気づかない脆弱性を専門家の目でチェックしてもらうことで、攻撃を未然に防げます。
従業員教育の重要性
技術的な対策と同じくらい重要なのが、従業員のセキュリティ意識向上です。フィッシングメールの見分け方、怪しいWebサイトの特徴、USBメモリの適切な管理方法など、基本的な知識を全員が身につける必要があります。
被害に遭った場合の初動対応
残念ながら攻撃を受けてしまった場合、初動対応が被害の拡大を左右します。
即座にやるべきこと
- 感染が疑われる端末をネットワークから切断
- 関係部署への緊急連絡
- 証拠保全のための端末の電源は切らない
- フォレンジック専門業者への連絡
多くの企業が犯してしまう間違いは、慌てて端末を再起動したり、ウイルス駆除ソフトを実行したりすることです。これらの行為は重要な証拠を消去してしまい、攻撃者の特定や被害範囲の把握を困難にします。
今すぐできる対策チェックリスト
以下のチェックリストで、現在のセキュリティ状況を確認してみてください:
個人・小規模事業者向け
- □ 全ての端末にアンチウイルスソフト
を導入済み
- □ VPN
を導入し、外出先でも安全な通信を確保
- □ OSやソフトウェアの自動更新を有効化
- □ 定期的なデータバックアップを実施
- □ 二段階認証を可能な限り設定
中規模企業向け
- □ 従業員全員のセキュリティ教育を実施
- □ Webサイト脆弱性診断サービス
を定期実施
- □ インシデント対応手順書を作成
- □ セキュリティポリシーの策定と周知
- □ 外部専門家との連携体制を構築
まとめ:攻撃は必ず来ると考えて対策を
フォレンジックアナリストとして多くの被害企業を見てきましたが、「うちは大丈夫」と思っていた企業ほど被害が深刻化する傾向があります。
サイバー攻撃は「もし来たら」ではなく「必ず来る」ものとして備えることが重要です。完璧な防御は不可能ですが、適切な対策により被害を最小限に抑えることは可能です。
特に、アンチウイルスソフト
、VPN
、Webサイト脆弱性診断サービス
は、費用対効果の高い基本的な対策として、すぐにでも導入を検討してください。
明日攻撃を受けても慌てない体制を、今から整えていきましょう。