金融機関が直面する現実的なサイバーセキュリティリスク
日本政策金融公庫と鹿児島銀行が「サイバー攻撃」を含む危機対応での連携覚書を締結したというニュースが報じられました。これは単なる災害対策の話ではありません。金融機関がサイバー攻撃によって業務停止に追い込まれる可能性を公式に認めた、極めて重要な動きなのです。
現役のフォレンジックアナリストとして、私は数多くの金融機関のインシデント対応に携わってきました。そこで見てきた現実は、多くの人が想像するよりもはるかに深刻です。
実際に起きている金融機関へのサイバー攻撃事例
ATMからの不正出金事案
2016年の南アフリカの銀行を狙った事件では、ATMネットワークに侵入した攻撃者が、世界各国で同時に約14億円を不正出金しました。日本でも実際にコンビニATMから約19億円が引き出される事件が発生しています。
ランサムウェア攻撃による業務停止
海外では実際に地方銀行がランサムウェア攻撃を受けて数日間業務を停止した事例があります。攻撃者は金融機関のバックアップシステムまで暗号化し、復旧に数週間を要したケースもあります。
インターネットバンキングの乗っ取り
個人向けのインターネットバンキングでは、フィッシングメールやマルウェア感染により、ログイン情報が盗まれ、不正送金される事案が後を絶ちません。
なぜ金融機関はサイバー攻撃の標的になるのか
高い価値のデータを保有
金融機関は顧客の個人情報、口座情報、取引履歴など、サイバー犯罪者にとって極めて価値の高いデータを大量に保有しています。
システムの複雑性
長年にわたって構築された金融システムは複雑で、セキュリティホールが存在しやすい環境です。レガシーシステムと新しいシステムが混在していることも脆弱性を生みます。
社会インフラとしての重要性
金融機関が停止すると社会全体に大きな影響を与えるため、攻撃者にとって「効果的な標的」となってしまいます。
個人ができるサイバーセキュリティ対策
強固なパスワード管理
インターネットバンキングのパスワードは他のサービスと絶対に使い回してはいけません。パスワード管理ツールの利用をおすすめします。
フィッシング詐欺の見分け方
銀行を装ったメールが届いても、URLを確認せずにクリックしないでください。公式サイトから直接ログインする習慣をつけましょう。
セキュリティソフトの導入
マルウェアによる情報窃取を防ぐため、信頼できるアンチウイルスソフト
の導入は必須です。特に金融取引を行うデバイスでは、リアルタイム保護機能が重要になります。
公衆Wi-Fiでの金融取引は避ける
カフェや駅などの公衆Wi-Fiは盗聴のリスクがあります。どうしても外出先で金融取引が必要な場合は、VPN
を使用して通信を暗号化してください。
中小企業が注意すべきポイント
法人向けインターネットバンキングの脆弱性
中小企業の法人口座を狙った攻撃が増加しています。従業員のPC感染により、法人口座から数千万円が不正送金された事例もあります。
取引先を装った詐欺
BEC(ビジネスメール詐欺)では、取引先になりすました攻撃者から偽の振込指示を受け、多額の損失を被るケースが報告されています。
Webサイトの脆弱性対策
自社のWebサイトが攻撃者に乗っ取られ、顧客情報が流出すると、金融機関との取引にも影響する可能性があります。定期的なWebサイト脆弱性診断サービス
の実施をおすすめします。
金融機関の連携が示す新たなリスク管理の必要性
今回の日本政策金融公庫と鹿児島銀行の連携協定は、「もしもの時」への備えの重要性を示しています。一つの金融機関がサイバー攻撃を受けても、連携先がバックアップとして機能することで、顧客への影響を最小限に抑えようという取り組みです。
しかし、これは同時に「金融機関でもサイバー攻撃によって業務停止になる可能性がある」ことを公式に認めたものでもあります。
今すぐ始めるべきセキュリティ対策
多要素認証の設定
インターネットバンキングで多要素認証が利用できる場合は、必ず設定してください。パスワードだけでは不十分です。
定期的な取引履歴の確認
不正取引の早期発見には、こまめな残高・取引履歴の確認が重要です。異常があれば即座に金融機関に連絡しましょう。
従業員教育の実施
企業では従業員向けのセキュリティ教育を定期的に実施し、フィッシングメールの見分け方やマルウェア感染の予防方法を周知してください。
まとめ:備えあれば憂いなし
金融機関同士の連携強化は、私たち利用者にとって心強いニュースです。しかし、最終的に自分の資産を守るのは自分自身の対策です。
サイバー攻撃は「もし起きたら」ではなく「いつか必ず起きる」前提で対策を講じる必要があります。個人では信頼できるアンチウイルスソフト
とVPN
の導入、企業ではWebサイト脆弱性診断サービス
による定期的なセキュリティチェックが欠かせません。
「まだ被害に遭っていないから大丈夫」という考えは、もはや通用しない時代です。今回の金融機関の動きを機に、ぜひご自身のセキュリティ対策を見直してみてください。