韓国大手書店イエス24、2カ月ぶりのランサムウェア攻撃から驚異の7時間復旧
韓国の大手インターネット書店・プレイガイド「イエス24」が、2025年8月11日午前4時40分頃、再びランサムウェア攻撃を受けました。しかし今回は、前回の5日間という長期間のサービス停止とは対照的に、わずか7時間でサービスを完全復旧させました。
この劇的な改善の背景には何があったのか、そして企業が学ぶべき教訓は何なのか。現役のフォレンジックアナリストとして、この事案を詳しく分析していきます。
前回攻撃との決定的な違い – バックアップ体制の構築
6月9日の前回攻撃では、韓国インターネット振興院(KISA)が「最も重要な問題点は主要データに対するオフサイトバックアップ体制がイエス24には構築されていなかった点」と指摘していました。
実際のフォレンジック調査では、このようなケースを数多く見てきています。特に中小企業では、バックアップを「同一サーバー内」や「同じネットワーク上」に保存しているケースが非常に多く、これではランサムウェアに感染した際に、バックアップデータまで暗号化されてしまいます。
実際のランサムウェア被害事例から見る教訓
私が担当した事例では、ある製造業の中小企業がRyukランサムウェアに感染し、以下のような被害を受けました:
- 本番システム全てが暗号化
- ネットワーク接続されたバックアップサーバーも同時感染
- 復旧まで2週間、売上損失約500万円
- 取引先への影響で信頼失墜
イエス24は前回の教訓を活かし、適切なオフサイトバックアップ体制を構築したからこそ、今回の迅速な復旧が可能になったのです。
ランサムウェア攻撃の巧妙化と対策の重要性
現在のランサムウェア攻撃は、単なる「データ暗号化」から「二重恐喝」「三重恐喝」へと進化しています。攻撃者は以下のような手法を使います:
現代のランサムウェア攻撃パターン
1. 潜伏期間の長期化
システムに侵入後、数週間から数か月間潜伏し、バックアップサーバーの場所やセキュリティ体制を調査します。
2. データ窃取 + 暗号化
暗号化前に重要データを外部に送信し、「データを公開する」と脅迫します。
3. 取引先への攻撃拡大
感染企業の取引先情報を利用し、サプライチェーン攻撃を仕掛けます。
個人ユーザーも例外ではありません。最近では、個人のパソコンを狙った「家族の写真を人質にする」タイプのランサムウェアも増加しています。アンチウイルスソフト
で定期的なシステムスキャンを行うことで、こうした脅威から大切なデータを守ることができます。
企業が今すぐ実装すべき3つの対策
イエス24の事例から学ぶ、効果的なランサムウェア対策をご紹介します。
1. オフサイトバックアップの徹底
- クラウド上の隔離されたストレージに定期バックアップ
- 3-2-1ルール:3つのコピー、2つの異なるメディア、1つはオフサイト
- 復旧テストの定期実施
2. ネットワーク分離とゼロトラスト原則
重要システムをネットワーク的に分離し、全てのアクセスを検証する体制を構築します。特に、リモートワークが普及した現在、VPN
を活用したセキュアな接続環境の整備は必須です。
3. 定期的な脆弱性診断
攻撃者は常にシステムの弱点を探しています。Webサイト脆弱性診断サービス
を定期的に実施することで、攻撃の入り口となる脆弱性を事前に発見・修正することができます。
個人ユーザーができる現実的な対策
企業だけでなく、個人ユーザーもランサムウェアの標的となっています。以下の対策を実践してください:
日常的な対策
- 重要ファイルの外部ストレージへの定期バックアップ
- OSとソフトウェアの自動更新設定
- 怪しいメールの添付ファイルやリンクを避ける
- 信頼できるアンチウイルスソフト
の常時監視
万が一感染した場合の初動対応
- 即座にネットワークから切断
- 感染範囲の特定
- バックアップデータの確認
- 専門機関への相談
重要なのは、身代金を支払わないことです。支払いは犯罪者への資金提供となり、データ復旧の保証もありません。
イエス24の迅速復旧から見える今後の課題
今回のイエス24の7時間復旧は称賛に値しますが、KISAが指摘する「再発リスク」は依然として存在します。
根本的な問題への対処
- なぜ2か月で再び攻撃を受けたのか
- 攻撃の侵入経路は完全に塞がれたのか
- 従業員のセキュリティ意識向上は図られたのか
フォレンジック調査の経験から言えることは、「一度攻撃を受けた企業は再び狙われやすい」ということです。攻撃者は成功した手法を再利用し、セキュリティの穴を探し続けます。
サイバーセキュリティは投資ではなく保険
多くの企業経営者から「セキュリティ対策はコストが高い」という声を聞きますが、イエス24の前回攻撃(5日間停止)と今回の攻撃(7時間復旧)の差を見れば、適切な投資の重要性は明らかです。
ランサムウェア攻撃による平均的な被害額は、中小企業で約300万円、大企業では数億円に上ります。一方、適切なセキュリティ対策にかかる年間コストは、この被害額の10分の1程度です。
個人レベルでも同様で、アンチウイルスソフト
やVPN
への年間投資額は、データ復旧や個人情報漏洩による損失と比べれば微々たるものです。
まとめ:予防こそが最強の対策
イエス24の事例は、「準備された組織は攻撃を受けても迅速に回復できる」という重要な教訓を示しています。しかし、最も重要なのは攻撃を受けないことです。
- 包括的なセキュリティ戦略の構築
- 定期的なバックアップとテスト
- 従業員教育の徹底
- 専門家による定期的な診断
サイバー攻撃は「もし起きたら」ではなく「いつ起きるか」の問題です。今すぐできる対策から始めて、大切なデータと事業を守りましょう。