秋田県内企業の約2割が被害者に…サイバー攻撃の深刻な現実
帝国データバンクが実施した調査で明らかになった数字は衝撃的でした。秋田県内企業の17.8%が過去にサイバー攻撃を受けたことがあるという事実。これは決して他人事ではありません。
私がフォレンジックアナリストとして様々な事件を担当してきた経験から言えることは、「攻撃されるかされないか」ではなく「いつ攻撃されるか」が問題だということです。
大企業vs中小企業:狙われ方の違い
調査結果を詳しく見ると:
- 大企業:30%が被害経験あり
- 中小企業:16.5%が被害経験あり
一見すると大企業の方が被害率は高いように見えますが、これには理由があります。大企業は攻撃を検知・報告する体制が整っているため被害を把握できているのです。
むしろ問題なのは中小企業です。実際の現場では、気づかないうちに侵入され、データを盗まれている「見えない被害」が相当数存在します。
中小企業が狙われる3つの理由
1. セキュリティ対策の手薄さ
多くの中小企業では「うちは小さい会社だから狙われない」という思い込みがあります。しかし、攻撃者にとって企業規模は関係ありません。むしろセキュリティが甘い中小企業の方が「簡単な標的」として狙われやすいのです。
2. 大企業への踏み台
サプライチェーン攻撃と呼ばれる手法では、まず中小企業に侵入し、そこから取引先の大企業を狙います。中小企業は「入口」として利用されているのです。
3. 専門知識を持つ人材の不足
IT担当者が1人しかいない、もしくは外部委託に頼り切っている企業では、適切なセキュリティ対策の実施が困難です。
現役CSIRTが見た実際の被害事例
事例1:製造業A社(従業員50名)のランサムウェア被害
メールに添付されたファイルを開いたことが発端でした。気づいた時には:
- 設計図面データ:暗号化され使用不可
- 顧客データ:約3,000件が漏洩
- 復旧まで:2週間の業務停止
- 総被害額:約800万円
この企業では基本的なアンチウイルスソフト
すら導入されていませんでした。
事例2:建設業B社(従業員30名)の情報漏洩
社員が公共Wi-Fiで業務を行った際に情報を盗み取られました:
- 設計図面:競合他社に流出
- 入札情報:事前に漏洩
- 顧客からの信頼失墜:契約解除3件
VPN
を使用していれば防げた被害でした。
中小企業でも実践可能な具体的対策
基本対策:まずはここから
1. エンドポイント保護の強化
全てのパソコンに信頼性の高いアンチウイルスソフト
をインストールしましょう。無料版では限界があるため、企業利用なら有料版の検討をおすすめします。
2. 通信経路の暗号化
外出先での業務やリモートワークの際は必ずVPN
を使用してください。公共Wi-Fiの利用は極力避け、やむを得ない場合は必ず暗号化された通信を行いましょう。
3. 定期的なバックアップ
- 重要データは毎日バックアップ
- バックアップデータは複数箇所に保管
- 復元テストを月1回実施
中級対策:体制を整える
4. セキュリティポリシーの策定
- パスワード管理のルール化
- USBメモリ使用の制限
- 私的デバイス使用の禁止
5. 従業員教育の実施
- フィッシングメール識別訓練
- 不審なファイル添付の対処法
- インシデント発生時の報告体制
上級対策:プロの力を活用
6. Webサイトの脆弱性診断
自社のWebサイトやWebアプリケーションに脆弱性がないかを専門業者に依頼して定期的にチェックしましょう。Webサイト脆弱性診断サービス
を活用することで、攻撃者に先回りして弱点を発見・修正できます。
投資対効果を考えた現実的なアプローチ
セキュリティ対策にかける予算は売上の1-3%が目安とされています。年商1億円の企業なら年間100-300万円です。
優先順位をつけた対策投資
第1段階(予算:年30-50万円)
- アンチウイルスソフト
導入
- VPN
契約
- 基本的な従業員教育
第2段階(予算:年100-200万円)
- 専用ファイアウォール導入
- セキュリティ監視サービス
- Webサイト脆弱性診断サービス
の実施
第3段階(予算:年200万円以上)
- セキュリティ専任者の雇用
- 高度な脅威検知システム
- CSIRT体制の構築
被害に遭った時の初動対応
万が一サイバー攻撃を受けた場合の対応手順:
- 被害の拡大防止:感染した端末をネットワークから切り離す
- 証拠保全:ログやファイルを削除しない
- 関係者への連絡:経営陣、IT担当者、外部専門家
- 当局への報告:警察、業界団体への届出
- 顧客・取引先への説明:被害状況と対応策の報告
重要なのは一人で抱え込まないことです。専門家の助けを早めに求めましょう。
2025年に向けたセキュリティトレンド
AI を活用した攻撃の増加
攻撃者もAI技術を活用し、より巧妙な攻撃を仕掛けてきます。従来の対策だけでは不十分になりつつあります。
ランサムウェアの多様化
単純なファイル暗号化だけでなく、データを盗んで身代金を要求する「ダブル脅迫」が主流になっています。
IoT機器を狙った攻撃
監視カメラや複合機など、意外な機器が攻撃の入口になるケースが増えています。
まとめ:「他人事」から「自分事」へ
秋田県内企業の17.8%という数字は、全国平均とほぼ同じレベルです。これは地方だから安全、規模が小さいから大丈夫という考えが間違いであることを証明しています。
サイバー攻撃は「起こるかもしれない」ではなく「必ず起こる」ものとして対策を講じる必要があります。完璧である必要はありませんが、攻撃者にとって「割に合わない標的」になることが重要です。
今日からできる対策を一つずつ実行し、会社と従業員、そして顧客を守りましょう。